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世界最高強度の透明樹脂の開発に成功
-新しい概念のバイオプラスチック開発、ガラス代替による軽量化社会構築を-
ポイント | ||||
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<開発の背景と経緯> | |||
植物などの生体に含まれる分子を用いて得られるバイオプラスチック注1)の中には、材料中にCO2を長期間固定できるため、持続的低炭素社会の構築に有効であるとされています。しかし、バイオプラスチックのほとんどは柔軟なポリエステルで耐熱性や力学物性が劣るため、その用途は限られ、主に使い捨て分野で使用されているのが現状です。例えば、ポリ乳酸は代表的なバイオポリエステルですが、その主骨格は一般的な工業用プラスチックに用いられる高分子に比べて柔軟であり、その力学強度は60 MPa程度です(参考・各種プラスチックの力学強度:ポリカーボネート:62 MPa、PMMA: 60 MPa、ナイロン11:67 MPa、フッ素化透明ポリイミド129 MPa)。この克服のために強化剤の添加や結晶化処理などをした材料が使われてきました。しかし、これらの処理は透明性を低下させることが問題となっています。 |
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<作成方法> | |||
遺伝子工学注3)的技術を用いて、様々な種類の4-アミノ桂皮酸の合成酵素(papABCとPAL)の組合せを検討することによって、ブドウ糖を原料として天然には存在しない4-アミノ桂皮酸を効率的に生産できる組み換え大腸菌を開発しました。また、4-アミノ桂皮酸を塩酸塩化し高圧水銀灯で照射する方法だけでなく、N-アセチル化して光二量化注4)させる手法も開発し芳香族ポリアミドの2種類のトルキシル酸誘導体原料を、両方ともバイオマスから合成しました。これらをモノマー材料として用い、世界初のバイオ由来芳香族ポリアミドを得ました。さらに、これらをキャスト法注5)によりフィルム化して透明膜を得ました。 |
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<今回の成果> | |||
今回の成果は大きく分けて以下の3つに分けることができます。 1)天然には存在しない4-アミノ桂皮酸を改良型遺伝子組換え大腸菌から大量生産する方法を確立 2)微生物からは得ることの極めて困難な芳香族ポリアミドを合成 3)史上最も高耐熱のバイオプラスチックを分子設計 ・引っ張り強度:356MPa つまり、この力学強度はガラス代替として最も注目されている透明樹脂であるポリカーボネートの力学強度(62MPa)の約6倍もあり、化学実験で用いるパイレックスガラスの力学強度(約120MPa)を超える値です。最近透明樹脂としてクローズアップされたナノセルロース膜の223MPaをも凌駕する値であり、この数値は透明樹脂の中で最も高い値と言えます(表1)。さらに耐熱温度も273℃であり、前回の我々の発表による耐熱温度よりも低めではありますが、充分に工業用途として利用出来るレベルにあります。 ・引っ張り強度:223-407MPa 特にアジピン酸を導入した場合には透明度87%で力学強度407MPaを確保した優れた透明材料となりました(表1:)。 |
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<今後の展開> | |||
今回の成果により、微生物由来分子である4-アミノ桂皮酸の光二量体が高強度透明樹脂の原料として有効であることが証明されました。今後、この芳香族ジアミンとほかの種々のカルボン酸誘導体を反応させることで芳香族ポリアミドだけでなく他のさまざまな高強度バイオプラスチックを合成します。その一部をデモンストレーションで公開します。また、今回の微生物由来芳香族ポリアミドは高屈折率でありレンズやセンサーなどのガラス代替材料としても有効利用できると考えられます。そして、自動車、航空機、船舶の部品などの様々な輸送機器のガラス代替する物質として設計する予定です。これによる軽量化はCO2排出量削減、産業廃棄物削減などの展開が期待できます。 |
<参考図> | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() 図1 4-アミノフェニルアラニンの構造を天然物(抗生物質)の化学構造(左)と組み換え大腸菌を用いた4-アミノ桂皮酸の合成ルート(ブドウ糖(グルコース)から4-アミノ桂皮酸を合成する経路)。 |
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![]() 図2 A.ブドウ糖(glucose)を原料とした4-アミノフェニルアラニン(4APhe)の発酵生産.B.4APheの4-アミノ桂皮酸(4ACA)への変換反応.C.回収・精製したバイオマス由来4-アミノ桂皮酸 |
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![]() 図3 4-アミノ桂皮酸からの4、4'-ジアミノトルキシル酸ジメチル(4番「バイオ由来芳香族ジアミン」:左ルート)および4、4'-ジアセトアミドトルキシル酸(6番「バイオ由来芳香族ジカルボン酸」:右ルート)の光反応による合成、および重縮合による芳香族ポリアミド(7番)の合成ルート。 |
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![]() 図4 芳香族ポリアミドの合成直後の写真(左)、キャスト後に得られた透明フィルムの写真(中央)、繊維化後の写真(右) |
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表1 今回作成した透明樹脂と一般的な透明樹脂の物性 ![]()
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<用語説明> | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
注1)バイオプラスチック 注2)スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ) 注3)遺伝子工学 注4)光二量化 注5)キャスト法 |
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<論文名> | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
" Ultra-strong, transparent polytruxillamides derived from microbial photodimers" (微生物性光二量体からの超高強度で透明なポリトルキシルアミド) |
平成28年4月22日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2016/04/22-1.html原子層材料グラフェンを用いたナノセンサー素子で二酸化炭素分子一個の検出に成功

原子層材料グラフェンを用いたナノセンサー素子で二酸化炭素分子一個の検出に成功
- 超高感度・超小型パーソナル環境センシング応用に期待 -
ポイント | |||
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<開発の背景と経緯> | |||
原子層材料であるグラフェンは、その優れた電気的特性に加え、シリコンと比べて1桁以上高いヤング率(材料の弾性係数)と、引っ張り応力に対して約20%の格子変形にも耐える機械的特性も有していることから、ナノ電子機械システム(NEMS)への応用が期待されています。さらに表面対体積比率が極めて高いことから、高感度センサーの材料としても大きな期待が寄せられています。水田らのグループは、グラフェンNEMS複合機能素子の研究にいち早く着手し、科学研究費助成事業・基盤研究(S)において、超高感度・環境センサーとパワーマネジメント素子を融合したオートノマス・複合機能センサーの開発に取り組んできました。近年、シックハウス症候群に代表される個人の生活空間レベルでの空気汚染に起因する健康障害が深刻な問題となっていますが、建材やインテリア素材、家具などから発生する化学分子ガスは一般に濃度がppbレベルと非常に希薄で、既存のガスセンサー技術で検出することは極めて困難です。今回の単一CO2分子検出成功は、グループが世界に先駆けて構築してきたグラフェンNEMS素子に関するリーディング技術と、吸着分子とグラフェン間に生じる相互作用を原子レベルで明らかにするシミュレーション技術を融合させて初めて実現できた成果です。 |
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<今回の成果> | |||
グラフェンNEMS作製技術を用いて、半導体基板上に2層グラフェン膜の両持ち梁を作製した後、下部の金電極に電圧を印加することで、グラフェン梁を電極上に引き寄せて付着させ、グラフェン斜め梁を形成しました(図1参照)。非常に希薄なCO2ガスを導入し、グラフェン斜め梁の電気抵抗を時間的にモニターしましたが、この状態では分子吸着に伴う信号は検出されません(図2(b)内の黒点データ)。しかし、半導体基板に電圧を加えて電界を発生させると、グラフェン梁の電気抵抗に、CO2分子一個一個がグラフェン梁表面に吸着・離脱したことを示す量子化された変化(一定の値で抵抗が増減すること)が観測されました(図2(b)内の青点とピンク点データ)。これは、基板から印加した電界によってCO2分子内にわずかな分極が生じ、それと基板からの電界の相互作用によってCO2分子がグラフェン梁表面に引き寄せられるからです(図3参照)。 |
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<今後の展開> | |||
今回の実験では、分子内の分極がゼロで電気的な検出が困難と考えられていたCO2分子を用いましたが、今後はシックハウス症候群の原因となっているホルムアルデヒドやベンゼンなど揮発性有機化合物ガスを用いた検証実験を進めていきます(図4参照)。また、グラフェン梁の幅をシングルナノメートル(10ナノメートル未満)に超微細化することで検出感度を更に向上させるとともに、基板から印加する電界の強度とグラフェンNEMS構造のデザインを最適化することで検出速度の向上を図ります。さらに、本プロジェクト内で並行して開発を進めているグラフェンNEMSスイッチを、本センサー回路のパワーゲーティング素子として集積化することで、センサーシステムの待機時消費電力をシャットアウトし、バッテリーの寿命を飛躍的に延ばすことを試みます。 |
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<用語説明> | |||
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<参考図> |
![]() 図1 (a)作製した2層グラフェンNEMSセンサーの構造、(b)斜めグラフェン梁の模式図、(c)実際に作製した素子の原子間力顕微鏡写真 |
![]() 図2 (a)吸着したCO2分子によるグラフェン梁電気抵抗変化を説明する模式図、(b)実際に観測された電気抵抗変化の時間依存性(黒点:基板電圧オフの場合、青点:基板に正電圧印加の場合、ピンク点:基板に負電圧印加の場合)、(c)電気抵抗変化の統計分布。'抵抗変化の量子化'を示している。 |
![]() 図3 斜め2層グラフェン梁の表面に物理吸着するCO2分子の様子を分子動力学でシミュレーションしている途中経過(左)。2層グラフェン表面付近での静電ポテンシャル分布。ポテンシャルの高い領域(黒い部分)に吸着CO2分子がトラップされる様子を示している(右上)。基板電界をオフにした場合、CO2分子が離れて行く軌跡を示している(右下)。 |
![]() 図4 シックハウス症候群、シックカー症候群などの原因となる揮発性有機化合物ガス分子の一例。表中の数字は、WHOから示されている8時間での限界濃度値で一桁のppbレベルでの検出精度が要求されることを示している。 |
![]() 図5 本研究成果に対するイメージ図 |
平成28年4月18日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2016/04/18-1.html2次元高分子を用いた高速プロトン伝導材料の開拓に成功
2次元高分子を用いた高速プロトン伝導材料の開拓に成功
北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)のマテリアルサイエンス系環境・エネルギー領域の江 東林教授らの研究グループは、高速プロトン伝導を可能とする2次元高分子材料の開拓に成功しました。高速プロトン伝導材料は、燃料電池のキーテクノロジーとして世界中で熾烈な開発競争が繰り広げられています。2次元高分子の特異な多孔構造を活かして、高温下でも(100 °C以上)安定作業が可能な新型プロトン伝導体の構築に成功しました。従来の多孔材料を用いた伝導体に比べて、200倍も速く伝導することが可能となりました。 |
1. 研究の成果 | |||
2次元高分子注1) は、規則正しい分子配列を有し、ナノサイズの1次元チャンネル構造を創り出す高分子です。構成ユニットの開拓により、一次並びに高次構造をともにデザインしてつくることができる物質として、近年大いに注目されています。特に、周期的な骨格構造および1次元チャンネル構造を活かした機能材料の開発が盛んに行われています。 |
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![]() 図1.高速プロトン伝導を実現する2次元高分子(左:トリアゾール;右:イミダゾール) |
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2. 今後の展開 | |||
プロトン伝導体は燃料電池のキーテクノロジーであり、水素自動車などの性能を直接左右する主材料として、そのインパクトは大きく、特に、高温下で安定作業が可能な高速イオン伝導体は、燃料電池の効率向上、長寿命化、およびコストダウンにつながり、その開発が世界各国で熾烈な競争が繰り広げられています。今回の研究成果は、次世代燃料電池に新しいプロトン伝導体を提供するものであり、革新的なエネルギー技術の向上に貢献することが期待されます。 |
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3. 用語解説 | |||
注1)2次元高分子:共有結合で有機ユニットを連結し、2次元に規定して成長した多孔性高分子シートの結晶化による積層される有機構造体。結晶性と多孔性が2次元高分子の基本物性であり、安定な積層構造の構築が機能開拓をはじめ、応用の鍵を握る。 |
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4. 論文情報 | |||
掲載誌:Nature Materials(Nature Publishing Groupが発行する材料誌;インパクトファクター36.5) |
平成28年4月5日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2016/04/05-2.html次世代の医用材料による医療の発展


次世代の医用材料による医療の発展
医用材料学研究室 Laboratory on Biomedical Materials
講師:西田 慶(NISHIDA Kei)
E-mail:
[研究分野]
生体材料学、合成高分子、タンパク質工学、ナノメディシン
[キーワード]
医用高分子、刺激応答性、バイオ界面、細胞膜、細胞内分解系
研究を始めるのに必要な知識・能力
特定分野の知識や能力は問いません。高分子化学、タンパク質工学、分子生物学、薬学、情報学を含む学際的な医用材料の研究について、学生のバックグラウンドに応じてテーマを設定します。新しい技術や分野を開拓する好奇心や向上心が最も大切です。
この研究で身につく能力
合成高分子やタンパク質、細胞を材料とした医用材料や疾患の診断・治療法の開発に取り組みます。学生の興味やバックグラウンドに応じて、有機合成や遺伝子工学、生物といった基盤材料を選択し、社会的にも学術的にも重要な研究テーマを進めてもらいます。各種材料の作製だけでなく、材料物性の評価、細胞や動物を用いた生命科学的な評価と多岐の分野にわたる実験技術や知識が必要になります。材料学と生命科学といった学問的な高いレベルの知識と技術が身につくとともに、理系人材としてどこでも活躍できる広い視野と知恵を養います。
【就職先企業・職種】材料、製薬、医療機器、食品関連企業
研究内容
私達は、がんをはじめとした疾患の治療や診断法の開発といった応用研究と、生体と医用材料の相互作用の理解や制御といった基礎研究を両立した医用材料の開発を進めています。有機合成、遺伝子工学、タンパク質工学、細胞工学を駆使して様々な材料を設計し、次世代の医用材料を創出しています。
1. 細胞の代謝機能を改善する刺激応答性高分子

図1 刺激応答性高分子やタンパク質からなる医用材料

図2 ステルス材料としての直鎖状タンパク質
がん化や老化した細胞は、正常な細胞と比較して代謝機能が大きく変わります。この代謝機能の変化に着目して、がんや老化の進行を逆転させる治療法の開発に取り組んでいます(図1)。特に、代謝産物や生理活性分子を細胞に送り込むことで代謝を改善し、疾患治療への応用を検討しています。具体的には、代謝産物などを原料とした刺激応答性合成高分子を設計し、細胞内の特異的環境に応答して分解・代謝物を放出する医用材料を合成しています。
2. 細胞膜構成分子に着目したがん治療・診断
がん細胞の細胞膜構成分子に着目した新たながん治療や診断法を開発しています (図1)。特に、がん細胞で異常性がある細胞膜のコレステロールや糖鎖を標的としています。このような細胞膜構成分子と相互作用するタンパク質材料を遺伝子工学的に設計し、がん治療や診断法を検討しています。例えば、細胞膜コレステロールに相互作用する合成タンパク質を設計し、がん細胞のコレステロール合成系やオートファジーといった細胞内分解系を制御し、がんの殺傷を可能にしています。
3. 直鎖状タンパク質のde novo設計とステルス材料
採血管や注射器から人工心肺、人工臓器、バイオ医薬などの医療機器・医薬品は、医療技術に必要不可欠なものです。医療機器・医薬品の表面は血液や体液と接触するため、血液の凝固や異物認識、免疫・炎症応答を抑制するためにタンパク質の吸着を抑制するステルス特性が重要です。私達は、医療機器・医薬品にステルス性を付与するタンパク質性の医用材料を構築しています (図2)。特に、計算科学やAIを活用した直鎖状タンパク質の設計法を考案し、ステルス性医用材料としての有用性を検討しています。
主な研究業績
- Kei Nishida, et al, Cholesterol- and ssDNA-binding fusion protein-mediated DNA tethering on the plasma membrane, Biomaterials. Science, 13, 299-309 (2025)
- Kei Nishida, et al., Sensitive detection of tumor cells using protein nanoparticles with multiple display of DNA aptamers and bioluminescent reporters, ACS Biomaterials Science and Engineering., 9, 5260–5269 (2023)
- Kei Nishida, et al., Selective Accumulation To Tumor Cells With Coacervate Droplets Formed From Water-Insoluble Acrylate Polymer, Biomacromolecules, 23, 1569–1580 (2022).
使用装置
NMR、高速液体クロマトグラフ、水晶振動子マイクロバランス、接触角計、フローサイトメーター、共焦点レーザー顕微鏡
研究室の指導方針
医用材料に関する研究では、様々な学問に関する知識や技術必要です。個々に独立した研究テーマを設定し、基礎知識や技術を指導するとともに自分の研究に愛着と興味を持って自らが研究を追求できるように導きます。さらに理系人材として重要な科学的な思考力や文章力、表現力を身に付けられるようサポートします。また、もっとも成長する場である学会の参加・発表のチャンスもたくさんあります。ディスカッション、就活、生活についての悩み等、なんでも相談してください。ウェルカムです。
[研究室HP] URL:https://miyakoeijiro.wixsite.com/eijiro-miyako-lab
結晶が成長する様子を観察してメカニズムを探る


結晶が成長する様子を観察してメカニズムを探る
次世代シリコン太陽電池研究室
Laboratory on Next-Generation Silicon Photovoltaics
講師:前田 健作(MAEDA Kensaku)
E-mail:
[研究分野]
結晶成長、太陽電池、非線形光学
[キーワード]
その場観察、結晶粒界、双晶
研究を始めるのに必要な知識・能力
学部や高専で習う基礎的な物理や数学の知識
思い込みで実験結果を判断せず、公平な視点で研究に取り組む姿勢
この研究で身につく能力
研究活動を通して、実験装置(ガス制御機構、加熱機構、顕微鏡など)の使い方やデータの収集と解析方法が身につきます。
また、定期的なゼミ活動や随時のディスカッションを通して、コミュニケーション能力や問題解決能力が鍛えられます。
失敗と思えるような実験から新しい発見が生まれることはよくあります。普通は気付けないような特徴を注意深く読み取る力や俯瞰的かつ合理的に考察する力など、修了後に社会で活躍する際にも役立つ能力を鍛えて欲しいと願っています。
【就職先企業・職種】 製造業など
研究内容
エレクトロニクス、オプトエレクトロニクスの発展を進めるには、材料となる結晶の高品質化や高性能化が不可欠です。結晶とは原子が規則正しく整列した固体であり、融液や溶液などの環境相から徐々に大きく成長することで形成されます。「成長」という言葉は主に生物に対して使われますが、立派な人間に成るには成長過程が重要であることと同様に、高性能な結晶を得るには成長過程が重要となります。この成長過程を注意深く観察することでメカニズムを解明し、高機能結晶を育てる技術を開発します。
1.薄膜多結晶シリコンの形成過程のその場観察
太陽電池の基板材料には半導体のシリコンが広く用いられています。薄膜多結晶シリコンはガラス基板上の非晶質シリコンにパルス光(フラッシュランプアニール光)を当てることで作ることができ、インゴットを薄くスライスして作る結晶基板よりも生産性とコスト面で優れています。非晶質シリコンが多結晶化する過程を観察することで、太陽電池の劣化の原因となる組織の形成機構を解明し、その形成を抑制する技術を開発します。
2.レーザー波長変換素子(周期双晶結晶)の作製

Li2B4O7の双晶成長過程(左)、顕微鏡観察炉(右)
半導体リソグラフィの極微細化やレーザー加工の超高精度化に伴い、高エネルギー効率で小型の全固体レーザー光源の短波長化が求められています。全固体レーザーは固体レーザーを非線形光学結晶により波長変換することで実現でき、光源にガスを用いるよりも安定で小型な装置となります。
非線形光学結晶の分極を周期的に反転することで変換効率を向上でき、強誘電体に電界印加することで生産されています。本研究では非強誘電体においても周期構造を導入するために、双晶形成を用いた反転技術の開発に取り組んでいます。
3.化合物半導体の融液成長過程の観察
シリコンSiは地殻中で酸素に次いで2番目に多い元素であり、単結晶シリコンは半導体デバイスの基板材料として世界中で広く生産されています。化合物半導体(InSb, GaSb, GaAsなど)の生産量は少ないですが、これからのエレクトロニクスの発展に無くてはならない結晶であり、単結晶育成技術の開発は重要です。結晶が成長する様子を観察して、双晶や粒界などの欠陥がどのように形成されるのか、そのメカニズムを解明することを目指しています。
主な研究業績
- K. Hu, K. Maeda, H. Morito, K. Shiga, K. Fujiwara, In situ observation of grain-boundary development from a facet-facet groove during solidification of silicon, Acta Materialia, 153, 186(2018).
- K. Maeda, A. Niitsu, H. Morito, K. Shiga, K. Fujiwara, In situ observation of grain boundary groove at the crystal/melt interface in Cu, Scripta Materialia, 146, 169(2018).
- K. Maeda, S. Uda, K. Fujiwara, J. Nozawa, H. Koizumi, S. Sato, Y. Kozawa, T. Nakamura, Fabrication of Quasi-Phase-Matching Structure during Paraelectric Borate Crystal Growth, Applied Physics Express, 6, 15501(2013).
研究室の指導方針
研究活動は自主性を重んじる方針で、学生自身の発想が研究に活かせます。毎朝一度、研究室メンバー全員が集まるミーティングを行い、その日の各自の活動を報告します。ミーティングでは、簡単な研究の相談もでき、メンバー間のコミュニケーションも十分行えるシステムです。当番の学生が文献紹介を行う勉強会では、細部にわたる質問への回答が求められ、しっかりとした基礎学力が身につきます。学術会議などでの外部発表は、積極的に行います。また、博士前期課程期間中に、英語の論文を執筆し投稿できるよう指導します。
[研究室HP] URL:https://txj.mg-nb.com/ms/labs/ohdaira/
電磁波と原子核でナノ空間を視(み)て、制御する


電磁波と原子核でナノ空間を視(み)て、制御する
固体ナノ化学研究室 Laboratory on Solid-State Nanochemistry
教授:後藤 和馬(GOTOH Kazuma)
E-mail:
[研究分野]
物理化学、無機材料化学
[キーワード]
核磁気共鳴(NMR)、炭素材料、二次電池(リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、次世代電池)、その場分析
研究を始めるのに必要な知識・能力
化学の基礎知識があれば研究をすみやかに始められますが、必要なことは学ぶという意欲さえあれば知識の有無は問題ありません。研究を通して自分の成長(能力的&人間的)を望み、新しいことに取り組む意思があれば大丈夫です。
この研究で身につく能力
ものづくりに始まり、測定機器による分析、得られた実験結果・測定結果の考察までを行うので、無機材料を中心とした材料合成の実験技術、電池作製および評価の技術、NMRをはじめとする各種機器分析の技術など幅広い技術が身につきます。また、研究室でのセミナーや学会発表、海外研究グループとの国際交流を通してプレゼンテーション能力、英語力なども磨かれます。しかし一番大事なことは、得られた実験・測定結果から「物質の中で何が起きているか」を総合的にとらえ考察する能力や、課題を解決し研究をまとめるための論理的な思考力など、AIにとって代わられることのない「人間」としての考える力であり、これを特に重視しています。社会に出て長くずっと第一線で活躍できる能力を持った人になってもらいたいと考えています。
【就職先企業・職種】 化学・材料メーカー、電機・電池・自動車および関連メーカー、分析機器メーカー、公設試験研究機関、教員
研究内容
ナノサイズの空間や表面などの構造、およびミクロな環境を解明することをテーマとして、細孔物質(物質の中に多数の小さな穴=細孔をもった固体材料)の内部空間や、黒鉛などの層状化合物の層間に吸蔵された分子やイオンの状態、動的挙動、内部空間の表面状態などを、核磁気共鳴(NMR)法を中心に様々な方法で研究しています。内部空間への分子やイオンの導入(インターカレーション)は電池電極反応とも密接な関連があることから、特にリチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池や今後実用化が期待される次世代電池など、各種二次電池の電極材料の研究を積極的に進めています。
【固体NMR開発と二次電池電極の状態分析】


電池のリアルタイムNMR解析(左上)*),金属リチウム析出イメージ(右上)2.
非晶質炭素の充電,過充電挙動モデル(下)2.
*) K.Gotoh et al., Carbon (2014).
・固体材料についてのNMRは、固体物質中の局所構造やダイナミクスの解析に極めて有効な分析手法です。特にナノ空間の構造や環境を調べる際には、吸着された物質中の原子やイオンを「プローブ(探針)」として利用し直接的に内部環境を調べることができます。よって、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池ではそれぞれリチウム、ナトリウムのNMR共鳴信号を解析することで、電池内部の微小な状態変化を検出できます。軽元素であるリチウムやナトリウムは電子顕微鏡やX線分光など他の分析手段では直接観測が非常に難しいため、NMRでリチウムやナトリウムなど電荷を担持する重要な核種の状態を観測することが、イオンの吸脱着メカニズム、すなわち電池の充放電メカニズムの解明に大きく役立ちます。
・最新のリチウムイオン電池や次世代電池であるナトリウムイオン電池、全固体電池などの電極内に吸蔵されたリチウム、ナトリウムの状態を解明しています。充放電により刻々と変化する内部環境をリアルタイムで観測するためには、電池の「その場観測(オペランド解析)」が必須となるため、電池観測のための高感度オペランドNMR法の開発を積極的に進めています。本手法により電池が過充電された際の金属析出メカニズムも解明できるため、安全性評価にも貢献できます。
・充放電メカニズムの解析から、新たな材料の設計指針を立て、それに基づいた負極材料の開発を行っています。炭素材料は以前から負極に用いられてきましたが、次世代電池用電極材料としても期待できることから、新たな炭素材料の開発を進めています。
主な研究業績
- Dynamic nuclear polarization -nuclear magnetic resonance for analyzing surface functional groups on carbonaceous materials. H. Ando, K. Suzuki, H. Kaji, T. Kambe, Y. Nishina, C. Nakano, K. Gotoh*, Carbon, 206, 84 (2023).
- Mechanisms for overcharging of carbon electrodes in lithium-ion/sodium-ion batteries analysed by operando solid-state NMR. K. Gotoh*, T. Yamakami, I. Nishimura, H. Kometani, H. Ando, K. Hashi, T. Shimizu and H. Ishida, J. Mater. Chem. A 8, 14472 (2020).
- Combination of solid state NMR and DFT calculation to elucidate the state of sodium in hard carbon electrodes. R. Morita, K. Gotoh*, M. Fukunishi, K. Kubota, S. Komaba, T. Yumura, N. Nishimura, K. Deguchi, S. Ohki, T. Shimizu and H. Ishida, J. Mater. Chem. A 4, 13183 (2016).
使用装置
Bruker AVANCE NEO 400MHz NMR(固体測定専用)拡散測定システム付, Bruker AVANCE Ⅲ500MHz-NMR(固体対応)オペランド測定用特殊プローブ付
X線回折,X線光電子分光(XPS),熱分析,電子顕微鏡,ガス吸脱着装置,電気化学測定装置(充放電試験装置等),電池作製設備(グローブボックス等),高温熱処理炉(2200℃)
研究室の指導方針
社会人としてどのような分野でも力を発揮できる基礎力と、専門家として活躍できる知識経験の、両方を持った人になってもらうことを目的として指導します。定期的な研究室でのセミナーや報告会がありますが、実験については装置の都合により個々のスケジュールがかなり異なってくるので、自分自身で研究計画を立案し、実行してもらうことになります。国内外の学会での発表のほか、海外研究グループや企業と進めている多彩な共同研究にも積極的に参加してもらい、国際的な幅広い視野を持てる機会を提供したいと考えています。
[研究室HP] URL:https://txj.mg-nb.com/nmcenter/labs/gotoh-www/
人体に学び、自然を理解し、ナノ戦略で難治性疾患や老化に挑む

人体に学び、自然を理解し、ナノ戦略で難治性疾患や老化に挑む
抗疾患ナノファイター研究室 Laboratory on Anti-Disease Nano-Fighter
教授:鄭 主恩(CHUNG, Joo Eun)
E-mail:
[研究分野]
バイオマテリアル、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、ナノメディシン、抗がん治療、アンチエイジング
[キーワード]
生体適合性ポリマー、ナノ粒子、非侵襲的薬物送達、ターゲティング、薬効増幅、緑茶カテキン、メラトニン
研究を始めるのに必要な知識・能力
特別な専門知識や技術は必要ありません。科学への探究心があり、向上心、自他への責任感、本気で世界トップレベルの研究に取り組む意欲と覚悟が大事です。
この研究で身につく能力
バイオマテリアルの合成やナノ粒子の調製から化学物質・細胞・動物を用いた様々な手法の評価まで、学際的な知識や分析技術を経験し習得することができます。社会実装価値の高い医療技術創出を目指し世界最先端技術と競う研究を行う中、実験・ディスカッション・プレゼンテーション・論文執筆を通して、論理的思考、慎重さ、忍耐強さ、トラブルシューティング能力、洞察力、コミュニケーション能力を鍛えられるよう指導します。
【就職先企業・職種】 大学教員、博士研究員、特許審査官、化学企業、製薬企業
研究内容

図1 自然由来のナノファイターによる難治性疾患治療および健康寿命の伸長
当研究室はバイオマテリアルを用いたナノシステムを開発し、現治療法の限界を克服することを目指しています。
昨今、医療技術の発展に伴い世界中の人々の寿命が長くなっていますが、健康寿命の伸長は平均寿命より遅く、そのギャップは老化に伴う様々な疾患による生活質(QOL)の低下や個人と社会への大きな負担をもたらしています。当研究室では自然や人体由来の物質からなる新規な生体分解性バイオマテリアルを合成し、様々な難治性疾患の治療や抗老化作用を発揮するナノ粒子を開発しています。例えば、緑茶カテキンまたは脳内睡眠ホルモンであるメラトニンの誘導体を薬物キャリアとしたナノ粒子の開発により、今まで薬物送達が困難とされている疾患部位(がん・脳・後眼部など)へタンパク質・抗体・低分子・核酸などの性質の異なる様々な薬物を高濃度で疾患部位へ特異的に送達し、従来の薬物治療の大きい問題となっている正常部位への副作用を低減すると共に、緑茶カテキンやメラトニンから由来するキャリア本来の治療効能とのシナジー効果により、著しく薬効を増幅することが可能であります(図1)。このナノ粒子は薬物送達の妨げになっている様々な生体バリアを効率よく克服する高い薬物送達能力と、副作用のない低濃度の薬物を用いても高い薬効を達成する薬効増幅能力を兼ね備えた革新的なテクノロジーであり、トップジャーナルに掲載され高い国際評価を受けています。さらに国際特許(90報以上)の出願・登録および大学や企業との共同研究など臨床応用及び産業化を目指した研究開発を推進します。
従来のDDS製剤とは異なる設計指針によって開発されている当研究室のナノメディシンにより、今まで治療困難であった難治性疾患の治療や老化により蓄積する生体へのダメージの修復を可能とし、健康な生活・社会の実現や産業の活性化を目指しています。
主な研究業績
- N. Yongvongsoontorn, J. E. Chung, S. J. Gao, K. H. Bae, M. H. Tan, J. Y. Ying, M. Kurisawa, Carrier-enhanced anticancer efficacy of sunitinib-loaded green tea-based micellar nanocomplex beyond tumor-targeted delivery, ACS Nano 13, 7591-7602 (2019).
- K. Liang, J. E. Chung, S. J. Gao, N. Yongvongsoontorn, M. Kurisawa, Highly augmented drug loading and stability of micellar nanocomplexes comprised of doxorubicin and poly(ethylene glycol)-green tea catechin conjugate for cancer therapy, Advanced Materials 30, 1706963 (2018).
- J. E. Chung et al. Self-assembled nanocomplexes comprising green tea catechin derivatives and protein drugs for cancer therapy, Nature Nanotechnology. 9, 907-912 (2014).
使用装置
動的光散乱測定装置、紫外可視分光光度計、HPLC、NMR、電子顕微鏡、細胞培養装置、動物実験関連機器、IVIS動物イメージングシステム
研究室の指導方針
自分が行っている研究の科学的・社会的意義やインパクト、そして最先端技術と競うレベルの新規性をしっかり理解することで、熱意と意欲を持って研究を進めるよう鼓舞します。研究の進捗状況に関する十分なディスカッションを行い、総合・分析・判断力や問題解決能力を身につけるよう指導します。研究課題を含め学生の個性と適性に合った方法で段階的なマルチプルマイルストーンを設定し、着実に自信をつけながら成長するよう努めます。迅速な意見交換やチームワークは研究遂行において重要であるため、コアタイム(10-17時)を設けます。雑誌会、研究発表、論文執筆を通して、実力・倫理観・リーダーシップを兼ね備えた科学者として活躍できるよう育成します。
[研究室HP] 作成中
固体電子構造と局所配位環境のデザインにより所望の光機能を発現させる!


固体電子構造と局所配位環境のデザインにより所望の光機能を発現させる!
光機能無機材料化学研究室
Laboratory on Optical Functional Inorganic Materials Chemistry
准教授:上田 純平(UEDA Jumpei)
E-mail:
[研究分野]
無機化学、固体化学、光化学、ガラス
[キーワード]
蛍光体、蓄光材料、応力発光体、白色LED、レーザー励起、白色光源、近赤外蛍光体、蛍光温度計、高圧物性、有機長残光蛍光体
研究を始めるのに必要な知識・能力
知的好奇心をもち、積極的に研究に取り組み、コミュニケーションとディスカッションを通して学問の発展や新分野の開拓、自己の成長を遂げたいという意欲が必要です。必要な知識は問いませんが、無機固体化学の知識があると研究に有利です。
この研究で身につく能力
研究テーマは、材料合成、物性評価、応用展開の一連の内容を含み、研究を通して計画能力、課題把握能力、論理的思考や幅広い知見と様々な測定技術を習得できます。英語での研究発表会や最新英語学術論文を紹介する雑誌会のゼミによって、プレゼンテーション力と英語コミュニケーション力が鍛えられます。
専門的には、材料合成技術(無機固体粉末、セラミックス、透光性セラミックス、ガラス、単結晶)や物性評価技術(X線回折測定、X線吸収分光、基礎的な光学特性評価、蛍光寿命測定、光伝導度測定、真空紫外分光、蓄光材料評価手法、ダイアモンドアンビルセルによる高圧実験)など、固体化学と分光学の研究者としての能力を身に付けることができます。
【就職先企業・職種】 材料・化学メーカー、電機メーカー
研究内容

組成に伴う化学的、幾何学的変化により光物性を制御
身の回りには発光する材料やデバイスが多く存在します。例えば、白色LED照明、レーザープロジェクター、テレビやスマートフォンのディスプレイはその一例です。これらの発光デバイスには、短波長の光を吸収して長波長の光に変換する蛍光体と呼ばれる発光中心イオン(希土類や遷移金属など)を添加した無機固体材料が使われています。蛍光体の光物性は、発光中心イオンの種類やその幾何学的・化学的な配位環境、結晶ホストの固体電子構造で大きく変化します。本研究室では、これらの光物性を支配する要因を詳細に調査・特定し、高効率蛍光体や近赤外蛍光体、残光蛍光体など所望の光機能を有した固体材料をデザインしています。
◆白色光を創る!
白色LED照明やレーザー励起白色光源は、青色LED(またはレーザー)と可視蛍光体から構成されています。白色光源用蛍光体は、用途により要求される特性が異なり、最近ではディスプレイ用の発光バンドの半値幅の狭い「ナロ―バンド蛍光体」やレーザーの強励起でも消光しない「レーザー励起用蛍光体」などの開発が求められています。我々は、物理現象の解明を通し、より高い特性を有する蛍光体を戦略的に創製します。

開発した長残光蛍光体
◆光を蓄える!
通常、蛍光体は励起光を遮断すると、直ちに減衰し光らなくなります。しかしながら、励起電子の一部を結晶ホストに存在する電子トラップに蓄えることにより、数分から数日の時間スケールで光続ける蛍光体(長残光蛍光体または蓄光材料)を作製できます。我々は固体電子構造に着目し、光誘起電子移動機構を制御することにより、残光蛍光体を設計しています。
◆光で測る!
蛍光体の光物性は、温度や圧力により変化するので、特徴的な発光の変化を利用することにより、非接触・非侵襲型の温度センサーや圧力センサーとして使用できます。バイオ応用に向けた近赤外サーモメーターや高感度圧力センサーなどを開発しています。
◆その他研究テーマ
透光性セラミックス、フォトクロミック材料、熱ルミネッセンス蛍光体、応力発光体、アップコンバージョン蓄光、有機長残光蛍光体、太陽電池用波長変換材料、消光機構解明、圧力誘起相転移
主な研究業績
- A. Hashimoto, J. Ueda, et al., J. Phys. Chem. C. 127, 15611(2023).
- J. Ueda, et al., ACS Appl. Opt. Mater. 1, 1128(2023).
- Jumpei Ueda, Bull. Chem. Soc. Jpn. 94, 2807(2021)
使用装置
真空高温管状炉、X線回折装置
蛍光分光光度計、クライオスタット
波長可変レーザー、蓄光材料評価装置
ダイアモンドアンビル高圧セル
研究室の指導方針
当研究室では、メンバーの人数により調整しますが、1週間に一度の研究報告会と雑誌会(最新英語論文の紹介)を行います。規則正しい生活のために、コアタイムを9時から17時とします。研究テーマは、材料合成、物性評価、応用展開の一連の内容を含み、研究室での実験だけでなく、共通分析機器の利用や学外との共同研究により、幅広い専門知識と技術の修得ができます。基本的に、在籍中に国内学会や国際学会で、一度は研究発表を行って頂きます。また、得られた研究成果は、国際論文雑誌にて学生が第一著者または共著者として発表することを目指します。
[研究室HP] URL:https://uedalab.com/
機能性バイオマテリアルで難治性疾患を治療する


機能性バイオマテリアルで難治性疾患を治療する
先端ナノ医療・長寿創生研究室
Laboratory on Advanced Nanomedicine and Longevity Creation
教授:栗澤 元一(KURISAWA Motoichi)
E-mail:
[研究分野]
バイオマテリアル、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、ナノメディシン、再生医療
[キーワード]
生体内分解性高分子、ナノ粒子、緑茶カテキン、インジェクタブルゲル、薬物徐放・ターゲッテイング、細胞治療
研究を始めるのに必要な知識・能力
高分子化学の基礎知識があれば、問題なく研究を始めることができますが、入学前に特別な知識・能力がなくても大学や企業で活躍出来るように本気で指導します。要は日々の研究活動に対する心構え次第で、いくらでも成長できます。そのためには自他共栄の精神を研究スタッフ・学生と共有できる研究室づくりが大切だと考えています。
この研究で身につく能力
栗澤研究室では、ナノ粒子やゲルの設計・合成、キャラクタリゼーションを行い、細胞実験や動物実験によって、目的とする機能が十分であるのか否かを評価します。幅広い領域を学ぶので、種々の測定装置や実験手法の基礎を身につけることができます。動物実験を完了するころには、緻密な実験計画を立てる能力、討論・プレゼンテーション能力を習得することができます。研究目的を達成することに邁進することは大事なのですが、フェアに実験結果を評価できる能力を習得できるように指導します。
【就職先企業・職種】 大学教員、博士研究員、特許審査官、化学企業、製薬企業
研究内容

図1.緑茶カテキン・ナノ粒子による疾患治療
当研究室では、高分子科学、生体材料、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、再生医療などの学問領域を基盤とし、難治性疾患を治療可能とする機能性生体材料を開発します。昨今、遺伝子治療や再生医療などを含む先端医療が実施され、これまでに治療不可能とされてきた疾患に新しい治療法が切り拓かれてきています。このような先端医療を支える生体材料に関する研究は、難治性疾患を将来的に治療可能とする医療技術開発において益々重要な役割を果たすものと考えられます。シンガポール、韓国、米国をはじめとする海外研究機関との共同研究を展開しており、臨床応用及び産業化を目指した研究開発を推進します。
[緑茶カテキン・ナノ粒子を用いたドラックデリバリーシステム]
栗澤研究室では、タンパク質・抗体・低分子・核酸などの性質の異なる医薬品の内包を可能とする緑茶カテキン誘導体を薬物キャリアとしたナノ粒子の開発によって、癌をはじめとする難治性疾患の治療を目指したドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究を展開します(図1)。 緑茶カテキン・ナノ粒子は、薬物を疾患部に送達することを主な目的とした従来のDDS製剤とは異なる設計指針によって開発されています。疾患部への送達に加えて、薬物キャリアの主成分である緑茶カテキンが抗癌活性を有するために、薬物と緑茶カテキンのそれぞれの抗癌活性に基づくシナジー効果によって、抗腫瘍効果を増幅することを特徴としています。

図2.インジェクタブルゲル・システムによる医療応用
[インジェクタブルゲルによるヘルスケアへの貢献]
生体内での安全なハイドロゲル形成を可能とするインジェクタブルゲルシステムの開発及びその生体機能性材料としての応用研究を展開します。従来、注射によって生体内で安全に化学架橋を誘導する事は困難でありましたが、高分子—フェノールコンジュゲートと酵素溶液の同時注入により、コンジュゲート中のフェノールの酸化カップリングを誘導し、生体内で安全にゲル化させるプラットホームテクノロジーを開発しています(図2)。この手法によって、生体内で薬物及び細胞をゲル内に固定し、長期間に及ぶ薬物徐放及び細胞増殖・分化の制御が可能となることから、様々な疾患に対して新たな治療法をDDS及び再生医療分野において確立されることが期待されます。
主な研究業績
- N. Yongvongsoontorn, J. E. Chung, S. J. Gao, K. H. Bae, M. H. Tan, J. Y. Ying, M. Kurisawa, Carrier-enhanced anticancer efficacy of sunitinib-loaded green tea-based micellar nanocomplex beyond tumor-targeted delivery, ACS Nano 13, 7591-7602 (2019).
- K. Liang, J. E. Chung, S. J. Gao, N. Yongvongsoontorn, M. Kurisawa, Highly augmented drug loading and stability of micellar nanocomplexes comprised of doxorubicin and poly(ethylene glycol)-green tea catechin conjugate for cancer therapy, Adv. Mater. 30, 1706963 (2018).
- J. E. Chung et al. Self-assembled nanocomplexes comprising green tea catechin derivatives and protein drugs for cancer therapy, Nature Nanotechnol. 9, 907-912 (2014).
使用装置
紫外可視分光光度計、NMR、動的光散乱測定装置、HPLC、レオメーター、電子顕微鏡、細胞培養装置、動物実験関連機器
研究室の指導方針
学生に寄り添うスタイルで研究室を運営することをモットーとします。研究のディスカッションや勉強会・雑誌会はできる限り、 頻繁に行い、学生の研究能力の向上に努めます。当然ながら、レベルの高い研究成果を多く創出することは重要ではありますが、学生には先ず、自身が携わっている学問や研究が開拓しうる将来の社会を楽しく想像しながら研究することを提案します。応用研究を遂行する際には、社会貢献の可能性について、学生と十分に議論し、将来に学生が社会でリーダとして活躍するべく力を養う機会にします。また、学生であっても情報受信だけではなく、情報発信ができるよう指導いたします。学生の興味や個性をよく把握し、学生の能力を伸ばします。研究室内では常に世界の最先端の研究を意識しつつ、研究室もその舞台の中であり、世界に向けて発信したいと強く学生が意識する雰囲気を創ります。
[研究室HP] URL:https://kurisawa-lab.labby.jp/
無人移動ロボットによる知的環境センシング技術の開拓

無人移動ロボットによる知的環境センシング技術の開拓
移動ロボティクス研究室 Laboratory on Mobile Robotics
准教授:池 勇勳(JI Yonghoon)
E-mail:
[研究分野]
ロボティクス、センサ情報処理
[キーワード]
移動ロボット、ロボットビジョン、環境センシング、 SLAM(simultaneous localization and mapping)
研究を始めるのに必要な知識・能力
線形代数学、確率論等の数学の基礎力と、ロボット工学、計測工学、機械学習の全般的な知識を持っていた方が望ましく、好奇心を持って研究への意欲のある学生であれば歓迎します。自分のアイデアをロボットシステムに実装するために、簡単なハードウェアの制作とプログラミング言語(特にC++又はPython)に慣れている場合は有利です。
この研究で身につく能力
ロボティクスは、機械・電子・情報・制御・計測等の様々な分野の要素技術が融合される分野であり、システムインテグレーション技術が非常に重要です。具体的な研究テーマによって差はありますが、エンジニアとしての幅広い工学的知識を習得可能です。また、当研究室では実際の現場に適用可能な社会実装に焦点を当てた研究を積極的に行っているため、様々な社会ニーズと先端技術とのマッチング能力と、社会に貢献可能な新しい技術を創造する基礎能力を学ぶことができます。
【就職先企業・職種】 製造業、IT系企業、研究職等
研究内容
当研究室では、無人移動ロボットと各種センサ情報処理技術を通じて、実社会における様々な問題解決に貢献可能な研究に取り組んでいます。特に、人間の代わりに災害環境や豪雪環境など過酷な環境内に分布する様々な物理的な情報を計測することで、高度な知的環境認識及び運動制御技術を実現しています。
■被災地探査ロボットシステム
当研究室では、自然災害をはじめ原子力災害等の災害現場において、被害情報収集活動や原子炉建屋内の環境モニタリングを実施するための、半自律移動ロボットによるセマンティックサーベイマップ生成システムを開発しています。具体的には、ロボットに搭載されたサーモカメラやハイパースペクトルカメラ、LiDARなどの複数種類のセンサ情報を取得・融合し、環境の物理的な特徴量を含むマップを生成する技術を開発しています。
■自律除雪ロボットシステム
当研究室では、過酷な豪雪による冬期間の積雪環境において、除雪車の自動運転のための基盤技術を開発しており、自律除雪ロボットシステムに搭載したカメラによる周囲環境の知覚能力の向上を図るため、近年驚くほどの技術革新が見られる画像・動画生成AI技術に着目しています。夏季の道路環境と冬季の積雪道路環境との関係性を画像・動画情報により事前に学習しておくことで、冬季にも対応する夏季の偽画像を高精度で生成可能となり、雪に覆われた除雪対象の舗道領域を正確に検出することが可能です。
また、正確な積雪分布状態の予測による除雪ロボットの高度な経路計画や運動最適化性能を向上させるための研究を行っています。
■特殊環境における自律移動ロボットのナビゲーション
様々なサービスロボットの開発のために不可欠な要素である自律移動ロボットのナビゲーション技術は、ここ数十年間活発に研究されてきた分野であり、最近では既に多くの技術が実用化されつつあります。当研究室では、他にも様々な次世代センサからの計測情報を処理し、多様な特殊環境における自律移動ロボットのナビゲーションの性能を向上させるための研究を行っています。
主な研究業績
- Y. Wang, Y. Ji, H. Woo, Y. Tamura, H. Tsuchiya, A. Yamashita, and H. Asama, "Acoustic Camera-based Pose Graph SLAM for Dense 3-D Mapping in Underwater Environments," IEEE Journal of Oceanic Engineering, 46(3), PP. 829-847, 2021.
- Y. Ji, Y. Tanaka, Y. Tamura, M. Kimura, A. Umemura, Y. Kaneshima, H. Murakami, A. Yamashita, and H. Asama, “Adaptive Motion Planning Based on Vehicle Characteristics and Regulations for Off-Road UGVs,” IEEE Transection on Industrial Informatics, 15(1), pp. 599-611, 2019.
- Y. Ji, A. Yamashita, and H. Asama, “Automatic Calibration of Camera Sensor Network Based on 3D Texture Map Information,” Robotics and Autonomous Systems, 87(1), pp. 313-328, 2017.
使用装置
車輪型およびクローラ型の移動ロボット
LiDAR、測域センサ、光学カメラ、サーモグラフィ、音響カメラ等の環境計測センサ
研究室の指導方針
当研究室では、ロボティクスという学問分野を通じて、多方面に社会に貢献できる人材を育成することを目指しています。そのためには、社会ニーズを把握した上で関連する技術動向を反映させる指導が重要であると考えており、学生には実際の現場に適用可能な社会実装を目標とした研究テーマを与えています。次に、研究成果を世の中に発信するため、すべての学生に対して国内・国際学会発表および学術論文の作成を積極的に推奨しています。最後に、研究室内でのミーティングはもちろん他大学および企業との連携を通じて、複数人のグループでの働き方、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力等も鍛えることを目指しています。
[研究室HP] URL:http://robotics.jaist.ac.jp/
液体から高機能性材料を創成し、生体・環境の見える化へ


液体から高機能性材料を創成し、生体・環境の見える化へ
プリンテッドバイオセンサー研究室
Laboratory on Printed Biosensors
講師:廣瀬 大亮(HIROSE Daisuke)
E-mail:
[研究分野]
酸化物、バイオセンサー、液体プロセス
[キーワード]
MOD法、薄膜トランジスタ、生体分子検出、バイオチップ、プリンテッドエレクトロニクス
研究を始めるのに必要な知識・能力
分野に囚われない研究を行うための好奇心・挑戦心、未解明の謎を楽しむ心。
専門知識は基礎から指導しますので、知識は問いません。どの分野からも歓迎します。一緒に頑張りましょう!
この研究で身につく能力
研究では様々な実験をすることになります。それによって分野に囚われない研究の着眼点や発想が身につきます。また、課題を解決するための論理的思考やタスクをこなす力も身につきます。学会やゼミの発表を通して、発表力・発信力も身につきます。
【就職先企業・職種】 半導体製造機器メーカー、電子部品会社、計測機器メーカー
研究内容
有機金属分解(MOD)法を基礎とした、モノづくりを行っています。この手法は“ 液体” から石(酸化物)を作製する技術であり、様々な電気的特性を示す酸化物を作り出せます。
さらに私たちはこのMOD法で作製した酸化物や中間体にこれまでにない特異的な特徴があることを発見しました。その特徴と半導体プロセスとを組み合わせることで、新たなセンシングデバイスやパターニング手法の研究・開発をしています。そして、なぜ特異的な特徴が現れるかの物性解析による解明も同時に進めています。
・高感度 - 酸化物センシングデバイス
コロナウイルスの感染拡大が世界的な問題となったことから、PCRやイムノクロマトに代わる迅速で高感度な菌・ウイルスの検査手法の需要が急速に高まってきています。
私たちは迅速で高感度に測定可能な酸化物薄膜トランジスタ型核酸センサーの研究・開発を進めています。図に、これまで作製したセンサーを示しています。この技術は核酸のみならず、多様な分子に適用可能であり、環境・衛生・農業・医療などの分野への応用も目指しています。
・MOD中間体の特性を生かしたパターニング
センサーなどの電子デバイスを作製するには、酸化物の精度の良いパターニングが必要となります。私たちはMOD法から酸化物を作製する際の中間体が変形性を示すことを発見しました。この特性を利用し、型押し成型による低エネルギー・低コストの酸化物の直接プリンティング手法を開発しました。この技術によって、簡単にサブミクロンスケールのパターンの作製が可能になりました。示した図は作製した酸化物パターンと、酸化物を積層した薄膜トランジスタアレイです。このように様々な酸化物の精度のよいパターンが作製できることがわかります。
主な研究業績
- Submicron titania pattern fabrication via thermal nanoimprint printing and Microstructural analysis of printable titania gels, D. Hirose, H. Yamada, T. Jochi, K. Ohara and Y. Takamura, Ceramics International, online,(2024)
- Rapid and Highly Sensitive Detection of Leishmania by Combining Recombinase Polymerase Amplification and Solution-Processed Oxide Thin-Film Transistor Technology, W. Wu, M. Biyani, D. Hirose and Y. Takamura, Biosensors, vol. 13, 8, p. 765,(2023).
- Origin of the thermal plasticity property of zirconium oxide gels for use in direct thermal nanoimprinting, D. Hirose, J. Li, Y. Murakami, S. Kohara and T. Shimoda, Ceramics International, vol.44, p. 17602,(2018).
使用装置
電子デバイス作製装置(フォトリソグラフィ装置、スパッタ装置ナノインプリント)、電気特性評価装置(半導体パラメータアナライザ、インピーダンスアナライザ)、形状評価装置(走査型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡)、材料物性評価装置(TG-DTA、FT-IR,UV-vis、XRD、XPS、接触角計)
研究室の指導方針
本研究室では液体から機能性酸化物をつくるMOD技術を基礎にして、生体・環境の見える化を目指しています。身の回りのあらゆる分子をターゲットとして、社会や生活へ応用を目指しています。今まさに大きく成長している段階です。みなさんのアイデアと私たちの技術を組み合わせ、新たな見える化センサーを創成しましょう!!
研究では、個々の興味に沿ったテーマを設定します。目標に向け、課題を一つずつクリアできるように指導いたします。生活や就職活動についての不安を取り除きながら、これからの壁を乗り越える力を身につけられるようサポートします。
画像処理と電子顕微鏡を組み合わせて原子レベルでの物質の不思議を発見する


画像処理と電子顕微鏡を組み合わせて
原子レベルでの物質の不思議を発見する
ナノ物性顕微探索研究室
Laboratory on Microscopic Nano-Characterization
講師:麻生 浩平(ASO Kohei)
E-mail:
[研究分野]
原子スケール材料解析
[キーワード]
無機材料、固体物性、ナノ物質、ナノ計測、計測技術、画像処理、電子顕微鏡
研究を始めるのに必要な知識・能力
研究テーマと真剣に向き合う意思、周囲の声を聞き入れる素直さ、研究を進める日々を楽しむ気持ちが大切です。固体材料、電子顕微鏡、画像処理、確率統計のいずれかへの興味があると良いです。知識があればなお良いですが、必須ではありません。
この研究で身につく能力
一連の研究(材料の知識獲得、電子顕微鏡の操作技術、Pythonによる画像処理、結果の解釈、文章化、自研究室や他研究室とのディスカッション、成果としてのまとめ)を通じて、各項目の技術と知識、および研究をやり通す経験が身につきます。
一般的な技術としては、自分の考えを掘り下げて分かりやすく表現できるよう、文章力の向上に重点を置きます。進捗報告会など、日々の研究に関する交流を文章によって行います。将来的に、企業や大学において書類をまとめる際や、近年成長が目覚ましい生成AIを思い通りに動かすうえで、文章力は重要だと考えています。
【就職先企業・職種】 電気・材料メーカー、材料分析会社、大学の研究者や技術職員など
研究内容
原子レベルで起こる物質の不思議なふるまいを発見するために、画像処理と電子顕微鏡を駆使した手法開発を進めています。電子顕微鏡データは、そのままでは単なる数値の配列です。画像処理による解析を通して初めて、粒子サイズ、結晶構造、原子位置といった有益な情報が得られます1,2。また、最近では、動作中のデバイスの動画観察にも取り組んでいます3。時刻ごとの多数の画像で構成される動画を効率的に解析するうえでも、画像処理は欠かせません。
具体的な研究テーマとして、以下が挙げられます。
1. リチウムイオン電池材料の動作下ナノ解析
2. ナノ粒子を統計的・3次元的に解析する手法開発
3. 原子位置を精密解析する手法開発1−3
ここでは3に絞って紹介します。
原子位置を精密解析する手法開発
図1aは、棒状の金ナノ粒子の電子顕微鏡像です。像で明るく見える点は、奥行き方向にならぶ金原子の列です。一見すると、輝点は画像内で規則正しく並んでいるように見えますが、これが本当かを解析しました。
規則正しい周期位置からの原子のずれ、つまり原子変位を測定しました。従来の方法では、変位量が小刻みに変化して見えます (図1b)。これは原子変位の情報ではなく、解析の邪魔をする統計ノイズ成分です。
そこで、信号処理手法のひとつであるガウス過程回帰を用いることで、原子変位の情報を抽出することに成功しました(図1c)。測定可能な最小の原子変位は0.7 pm(ピコメートル、1兆分の1メートル)ときわめて小さく、材料のなかで生じる2.4 pmの原子変位を検出することに成功しました。
解析によって、粒子の先端部分に位置する原子列は、軸に沿って外側へと変位していることが発見されました。考察の結果、棒状粒子の先端と胴体で曲率が異なるため表面張力に差が生じ、局所的な変位が生じると示唆されました1。
図1 (a) 金ナノロッドの電子顕微鏡像。奥行き方向にならぶ金原子の列が明るい点として見えています。(b) 従来手法で測定した原子変位と (c) データ科学で処理した原子変位。原子が正常な位置から左にずれるほど暗い青色、右にずれるほど明るい黄色で示されます。
主な研究業績
- K. Aso, J. Maebe, XQ. Tran, T. Yamamoto, Y. Oshima, and S. Matsumura, “Subpercent Local Strains due to the Shapes of Gold Nanorods Revealed by Data-Driven Analysis”, ACS Nano 15 (2021) 12077
- K. Aso, H. Kobayashi, S. Yoshimaru, XQ. Tran, M. Yamauchi, S. Matsumura, and Y. Oshima, “Singular behaviour of atomic ordering in Pt–Co nanocubes starting from core–shell configurations”, Nanoscale 14 (2022) 9842
- J. Liu, J. Zhang, K. Aso, T. Arai, M. Tomitori, and Y. Oshima, “Estimation of local variation in Young’s modulus over a gold nanocontact using microscopic nanomechanical measurement methods”, Nanotechnology 36 (2025) 015703
使用装置
走査透過電子顕微鏡、解析用ワークステーションPC、集束イオンビームつき走査電子顕微鏡、電子顕微鏡用特殊ホルダー、電気化学測定装置、グローブボックス
研究室の指導方針
共同研究を活発に行っています。責任をもって自らの研究を進め、研究協力者も納得できる成果を挙げれば、自信につながります。加えて、自らの好みや賛否にとらわれず、多種多様な考えを受け止める幅広い視野が育まれます。個々の研究内容については、日常的に議論をおこない、必要があれば柔軟に軌道修正します。当初は想像しなかった面白いテーマが見つかるのも魅力です。学生の皆さんが大学院を終えるとき、研究を通して「ベストを尽くし、満足いく成果を挙げ、入学当初は想像もできない良い未来を迎えられた」と思えるよう、最大限サポートします。
[研究室HP] URL:https://www.jaist-oshima-labo.com/
ナノバイオテクノロジー


ナノバイオテクノロジー
ナノバイオ研究室 Laboratory on Nanobiotechnology
講師:高橋 麻里(TAKAHASHI Mari)
E-mail:
[研究分野]
ナノ材料科学、細胞生物学
[キーワード]
ナノ粒子、バイオ医療応用
研究を始めるのに必要な知識・能力
探求心があり、努力することを厭わず、向上心がある方ならバックグランドが違っていても研究を楽しむことができます。研究テーマに対して、自分がこの研究を進めるんだという主体的な立場にたつことが必要です。共同研究をすることが多いため、協調性やコミュニケーション能力も必要となります。
この研究で身につく能力
ナノ粒子の合成法、構造・特性評価及び解析方法に関する幅広い知識。金属・磁性・半導体材料とナノ粒子にすることで現れる特徴的な性質に関する一般的な知識。細胞生物学に関する一般的な知識。新たな課題に対して取り組むチャレンジ精神。
【就職先企業・職種】 製造業(化学、精密機器、ガラス・土石製品、繊維製品、その他製品など)
研究内容
ナノ粒子のバイオ医療応用に関する注目は年々高まっています。私達は金属・半導体・磁性体をナノサイズにすることで現れるバルクとは異なる性質を利用して、ナノ粒子のバイオ医療応用に関する研究を行っています。応用先は様々ですが、主に下記に示す3つの内容に力を入れており、それぞれの用途に合わせたナノ粒子の合成から構造解析、特性評価、応用までの一連の流れを一人の学生が担当して研究を進めます。
1. 磁性体ナノ粒子を用いた細胞内小器官の磁気分離
正常細胞と機能欠損細胞から細胞内小器官を分離し、タンパク質を解析し比較することは、疾患の分子機構の解明において重要です。超常磁性体ナノ粒子を合成し、表面を生体分子で機能化した粒子を用い、細胞内小器官を迅速かつ温和に磁気分離し、生化学的手法による解析を行います。種々の細胞内小器官の磁気分離法の構築や機能欠損細胞のタンパク質解析を通して、最終的には創薬分野への貢献を目指します。
2. 磁気粒子分光を用いたイムノアッセイ
人生100年時代と言われる現代、私達が健康に長生きするためには、疾病の早期発見のための診断技術・精度の向上がますます重要となります。磁気粒子分光(MPS)を用いたイムノアッセイ(抗原抗体反応を用いた抗原の検出)では、種々の磁性体ナノ粒子を合成しMPSで評価し、感度が高いプローブを複数選択することで同時多抗原検出を目指します。
3. アップコンバージョンナノ粒子による光遺伝学的研究
アップコンバージョンナノ粒子とは、波長が長い入射光を照射した際に波長が短い発光を示す蛍光体ナノ粒子です。光遺伝学とは光受容タンパク質を遺伝学的に細胞に発現させ、光で細胞の応答を制御する技術で、この2つを組わせることで、光による生体組織の制御を行う研究をしております。
主な研究業績
- D. Maemura, T. S. Le, M. Takahashi, K. Matsumura, and S. Maenosono: "Optogenetic Calcium Ion Influx in Myoblasts and Myotubes by Near-Infrared Light Using Upconversion Nanoparticles" ACS Appl. Mater. Interfaces 15 (2023) 42196
- T. S. Le, M. Takahashi, N. Isozumi, A. Miyazato, Y. Hiratsuka, K. Matsumura, T. Taguchi, S. Maenosono: "Quick and Mild Isolation of Intact Lysosomes Using Magnetic–Plasmonic Hybrid Nanoparticles" ACS Nano 16 (2022) 885
- T. S. Le, S. He, M. Takahashi, Y. Enomoto, Y. Matsumura, and S. Maenosono: "Enhancing the Sensitivity of Lateral Flow Immunoassay by Magnetic Enrichment Using Multifunctional Nanocomposite Probes" Langmuir 37 (2021) 6566
使用装置
透過型電子顕微鏡(TEM) 超伝導量子干渉磁束計(SQUID)
走査透過型電子顕微鏡(STEM) 動的光散乱測定装置(DLS)
X線回折装置(XRD) 共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)
X線光電子分光装置(XPS) 核磁気共鳴装置(NMR)
研究室の指導方針
常に新しい内容の研究を行っており、研究内容に関しては教員が学生へ毎回指示を与えるのではなく、学生自身にも実験と論文調査から次の方向性を決めるといった、一緒に研究を進めていくスタンスで研究を行います。その過程で卒業後の進路(就職希望か進学希望)に合わせて必要な基礎知識と研究力が身につくように指導します。また、分野外の方でも最前線の研究が行えるように効率的な努力の仕方や学習法を身に着けられるように指導しますので、心配なことや研究に関する疑問等は積極的に相談してください。そのためにはコミュニケーション能力も重要であり、卒業後の社会人にとって必要不可欠なスキルが身につくようにサポートします。
[研究室HP] URL:https://txj.mg-nb.com/~shinya/
材料とバイオを使ってゲームチェンジングテクノロジーを生み出す!


材料とバイオを使ってゲームチェンジング
テクノロジーを生み出す!
先進生物工学研究室 Laboratory on Advanced Bioengineering
教授:都 英次郎(MIYAKO Eijiro)
E-mail:
[研究分野]
生物工学、材料化学、ナノテクノロジー、ナノメディシン
[キーワード]
ナノロボット、ナノバイオ、ナノ材料、生体機能材料、バイオテクノロジー、バイオミメティクス
研究を始めるのに必要な知識・能力
研究を始めるにあたり特別な知識・能力は問いません。本物の科学者や世界で活躍できる第一線の研究者に本気でなりたいと考えている学生を募集しています。特に新しい技術や新分野を開拓しようと柔軟性、協調性、好奇心、志を持った熱心な学生を求めています。
この研究で身につく能力
私たちの研究室では色々な研究手法を組み合わせた学際的な研究を行っているので多くのことを学ぶことができます。例えば、有機合成、生化学、遺伝子工学、細胞や動物実験に係る手技、ナノ材料、医療用デバイス、ロボットなどの様々な知識や技術を習得することができます。
研究内容

図1. 革新的ナノバイオシステム創出を目指したナノロボットの一例(生体内で光と磁場で駆動するナノトランスポーター)。

図2. 全自動人工花粉交配を目指したミツバチ型ロボット(プロトタイプ)。効率的に花粉を運ぶために粘着性ゲルを塗布した動物体毛を極小ドローンの下部に取り付けている。
私たちの研究室の興味は、生物工学、材料化学、ナノテクノロジー、ナノメディシンの領域にあります。
例えば、我々の研究室では、ナノ材料の様々な物理化学的特性を活用することで、ナノスケールレベルで体の中の生物学的な活性や健康状態をモニターし、制御可能な革新的ナノバイオシステムの開発に挑戦しています(図1)。また、本研究目的のために高性能ナノロボットの合成、それらの表面工学、集合体を研究し、作製したナノロボットを上記の研究領域に統合することに注力しています。さらに、合成したナノロボットの構造と機能の関係における根本的な理解にも努めています。これらの研究はナノテクノロジー等の基礎研究としても重要ですが、とりわけ医学・薬学の分野において有用な知見と病気の治療法を提供できると期待しています。
一方、我々は食品産業や農業分野のためにも社会を一変させる革新的な技術(ゲームチェンジングテクノロジー)を創出しようと奮闘しています。現在、農作物の生産量に直結するミツバチなどの花粉媒介昆虫の減少が世界規模の問題となっています。昆虫を使った花粉交配法の代替手段として古来より羽毛や筆を用いた人の手による人工的な受粉が行われていますが、この方法は手間と労力が掛かる上、実際に作業を行う農家の方々の高齢化と人手不足が深刻な状況になっています。そこで我々の研究室では、全自動の人工花粉交配技術を構築すべく、自然から着想を得て設計するネイチャーインスパイアード材料とロボット工学を融合した研究を行っています(図2)。
このように我々の研究は、化学、物理、生物、材料科学、工学といった多くの研究分野から成る学際的な性質によって成り立っています。
過去の代表的な研究テーマ
- 体の中で光発電するナノデバイス
- 液体金属ナノトランスフォーマー
- 超分子ナノ電車
- 細胞を刺激するナノモジュレーター
- ナノ材料の光発熱を利用した遺伝子発現制御
- 光と磁場で駆動するナノトランスポーター
- 材料工学を駆使した花粉交配用ミツバチロボット
これらは単なる一例にすぎません。自然科学を理解・開拓し、革新的な新技術、ひいては新分野そのものを一緒につくりましょう!
主な研究業績
- Yue Yu, Xi Yang, Sheethal Reghu, Sunil C. Kaul, Renu Wadhwa, Eijiro Miyako*, "Photothermogenetic inhibition of cancer stemness by near-infrared-light-activatable nanocomplexes" Nature Communications 11, 4117 (2020).
- Svetlana A. Chechetka, Yue Yu, Xu Zhen, Manojit Pramanik, Kanyi Pu, Eijiro Miyako*, “Light-driven liquid metal nanotransformers for biomedical theranostics” Nature Communications 8, 15432 (2017).
- Eijiro Miyako*, Kenji Kono, Eiji Yuba, Chie Hosokawa, Hidenori Nagai, Yoshihisa Hagihara “Carbon nanotube-liposome supramolecular nanotrains for intelligent molecular-transport systems” Nature Communications 3, 1226 (2012).
使用装置
レーザー、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡、紫外-可視-近赤外分光光度計、蛍光光度計など
研究室の指導方針
ディスカッション、雑誌会、定期ミーティング、学会などを通じて、実験の解析技術、独立した思考能力、論理的な表現力などが身に付くように指導します。特に、博士後期課程への進学希望者には、最新かつ国際的な研究環境を提供し、産業やアカデミアの研究ポジションが得られるように育成します。研究室のコアタイムは基本的には1時間の休憩を除いた9時から17時です。このため効率的、効果的、スピーディに作業をしなければいけません。メリハリをもって研究も余暇もエンジョイしましょう。
[研究室HP] URL:https://miyakoeijiro.wixsite.com/eijiro-miyako-lab
材料の柔らかさを活かした次世代ロボットの開発


材料の柔らかさを活かした次世代ロボットの開発
ソフトロボット研究室 Laboratory on Soft Robotics
教授:ホ アン ヴァン(HO Anh-Van)
E-mail:
[研究分野]
ロボティクス
[キーワード]
ソフトロボティクス、柔軟な触覚装置
研究を始めるのに必要な知識・能力
自然の物事と現象を解明することにより、柔軟物を積極的に利用した新機能の機構を開発する本研究室は、分析力や実践力を求め、機能材料の力を借りて技術課題を解決する想像力を重視しています。また、特定の分野・知識を問わずに、ものづくりに興味を持つ学生を歓迎します。
この研究で身につく能力
・機械設計、電子回路設計、加工方法 ・プログラミング、制御 ・計算、解析 |
・提案能力 ・コミュニケーション能力、論文作成力 ・グローバルな思考、起業魂 |
【就職先企業・職種】 機械設計会社、電機メーカ、大学等
研究内容
概要:
自然界のすべての現象には、何らかの形で必ずダイナミクスが関与しています。このダイナミクスを理解できれば、その現象を生じさせるために、メカニズムがどのように進化してきたかを理解することが可能になります。また、そのメカニズムをロボットの駆動装置または感覚装置に応用することで、新しい機構を創出できると考えられます。本研究室の長期研究計画・内容については以下の図をご参照ください。
内容:
本研究では柔軟物とその形態制御を用いてセンシング装置・アクチュエーター・知能は以下のようなテーマで行われています。
【短期のテーマ】
① | ![]() |
② | ![]() |
③ | しわのメカニズムにヒントを得た、柔軟性を有するアクチュエータを用いて柔軟物を変形させることによって、同一のセンサのみでも異なるセンシング能力が得られる能動的な触覚センサの開発を目指します。![]() |
【長期のテーマ】
④ 柔軟物を掴めるソフトロボットハンドの開発
⑤ ラピッドプロトタイプ技術の開発
⑥ 柔軟な思考のあるロボットの開発 等
主な研究業績

- Van Ho et al., IEEE Transactions on Robotics, Vol. 27, No. 3, pp.411-424, 2011
- Van Ho et al., IEEE Sensors Journal, Vol. 13, No. 10, pp. 4065-4080, 2013,
- Van Ho et al., IEEE Robotics and Automation Letter, Vol. 1, Issue 1, pp. 585-592, 2016
使用装置
3Dプリンター、電動直動ステージ、6軸力覚センサ、触覚提示装置、小型NC加工機、高速度カメラ
研究室の指導方針
修士課程、博士課程に関わらず、本研究室に右側の図が示すような「研究活動のサイクル」や「3Cの研究者」を身につけた学生を育成します。そのため、毎週のミーティングで学生の進捗・成長を積極的にフォローします。
研究活動において、各メンバーの発想・アイデアを尊重にして、PDCA(Plan・Do・Check・Action)を通じて具体的な実現方法が見つかるまで指導します。
学生のキャリアパスの選択を全力でサポートします。
[研究室HP] URL:https://txj.mg-nb.com/ms/labs/vanho/index.html
光を知り、光で分析する ~分光学への誘い~


光を知り、光で分析する ~分光学への誘い~
基礎物理化学・超微量ラマン分光分析研究室
Physical Chemistry, Ultrasensitive Raman Spectroscopy Laboratory
准教授:山本 裕子(YAMAMOTO Yuko S.)
E-mail:
[研究分野]
物理化学境界領域・超微量ラマン分光、量子光学
[キーワード]
ラマン分光学、表面増強ラマン散乱、ナノマテリアル
研究を始めるのに必要な知識・能力
「光について学びたい」「光について詳しくなりたい」「光を使った分析手法を身につけたい」など、「光」あるいは「分光学」に興味を持ち学ぶ意欲があること。これが当研究室で研究を始めるにあたって必要な能力(意欲) です。実現に必要な知識や、技術の修得の仕方は教えます。
大発見したい・ノーベル賞を取りたい・大きな成果を上げたいなどの大きな野望を持つ学生さん・社会人学生さんも大歓迎です。
この研究で身につく能力
光を使った各種分析手法について、基礎~応用までが一貫して身につきます。特に、①ラマン分光法・超微量ラマン分光法(表面増強ラマン散乱, Surface-enhanced Raman scattering)、②紫外可視吸収分光法などの各種吸収分光法。また、可視光レーザーの取り扱いや、光学顕微鏡やミラー・レンズなど各種光学部品の取り扱い・装置の組み立て、分光器の基礎知識や取り扱い方も身につけることができます。
【就職先企業・職種】 化学系企業、起業等
研究内容
私たちは、光を使った検出方法を軸としながら世界最先端の研究を進めています。光検出は、マテリアル研究を行う上で最も基本的かつ重要な手法のひとつです。

図. 表面増強ラマン散乱法測定の概略図
1.強結合 新しい光学現象を生み出すナノスケール創成場
1970年代に、表面増強ラマン散乱 (Surface-enhanced Raman scattering,SERS) という現象が発見されました。これは、物質に光を当てたときにごくわずかに現れる「ラマン散乱光」が飛躍的に増強する現象のことです。SERS効果は当初、銀のナノ構造体表面で発見されました。そして、発見から50年経ち、なぜラマン散乱効果が飛躍的に増強するのか、そのメカニズムがおおよそ明らかになりました。
私たちは2014年に、ラマン散乱効果が飛躍的に増強する「ホットスポット」では「強結合」という現象が起きており、この「強結合」状態が別の新しい光学現象をも生み出していることを発見しました。
ホットスポットは、ナノ世界の光が作り出す未知のフロンティアの一つです。その発見以来、私たちは銀ナノ粒子がつくるホットスポットでの強結合をさらに深く、詳しく調べ、数々の新現象を発見し続けています。
2.超微量ラマン分光(表面増強ラマン散乱, SERS)
上記の通り、SERSは1970年代に発見され既に50年経っています。しかし未だ目立った実用化例がないことから「Sleeping Giant (眠れる巨人)」と呼ばれています。一方で SERSは人のこころをどこか魅了するのでしょう、巨人を眠りから覚まそうと SERS研究へ新規参入してくる研究者は後を絶ちません。
私たちの研究グルーブでは、銀ナノコロイド粒子を使って SERSを研究しています。銀ナノコロイド粒子は1997年に初めて1分子だけのSERS測定に成功した、極めて重要な実験系です。
その銀ナノコロイド粒子を使って、私たちの研究グループメンバーの一人が2024年に「希土類元素のSERS」という新しい研究分野の開拓に成功したので、次に説明します。
3.希土類元素とSERS
希土類元素(レアアース) は原子番号57番~71番に位置する非常に重い元素で、地球上にほとんど存在しないことから希土類元素と呼ばれています。希土類元素は最外殻の電子配置が互いに似通っているため、化学的な手法でその種類を同定することが難しい問題があります。
当研究室では2024年、希土類元素を含むキレート分子の SERSを測定することで、間接的に希土類元素であるLa(ランタン) とGd(ガドリニウム) を互いに識別することに成功しました。これは世界的に見て非常にユニークかつ重要な研究成果です。とても難しい研究ですが、研究に新たに参画する挑戦者をお待ちしています。
4.金属材料と電気化学
当研究室ではまた、物理化学分野、特に金属材料科学と電気化学の境界領域での研究もスタートしています。まだ詳しくお伝えすることができませんが、世界に大きなインパクトを与える大きな研究成果を期待しながら日々研究を続けています。
参考文献・これまでの研究業績や論文にご興味がある方は、お気軽に指導教員までメール( )または指導教員室M4-40へお越しください。論文の別刷(論文のコピーのこと)を差し上げます。
主な研究業績
- Jin Hao, Tamitake Itoh and Yuko S. Yamamoto, “Classification of La3+ and Gd3+ rare earth ions using surface-enhanced Raman scattering”, Journal of Physical Chemistry C, 128, 5611 (2024)
- Tamitake Itoh and Yuko S. Yamamoto, “Basics and Frontiers of Electromagnetic Mechanism of SERS Hotspots” In Book: Procházka, M., Kneipp, J., Zhao, B., Ozaki, Y. (eds) “Surface- and Tip-Enhanced Raman Scattering Spectroscopy” Springer, Singapore (2024)
- 山本裕子 , “ プラズモンと分子の電磁相互作用の基礎 ”, 応用物理学会フォトニクスニュース , 9(2), 68-72 (2023)
使用装置
表面増強ラマン顕微鏡(自作)
ラマン顕微鏡
紫外可視吸収測定器
密度汎関数(DFT)計算装置
研究室の指導方針
世界トップレベルで基礎研究を行うための、自由闊達な研究環境を提供しています。当研究室にはコアタイムがありません。各自が自由な時間で研究を組み立てており、そのスタイルを奨励しています。研究室内のメンバーとの情報交換・互いの進捗の確認は、週一回の全体ミーティングおよび輪講セミナーにて行います。そのため、自律的にしっかりと研究生活を組み立てられるタイプの学生の方に適した環境です。
自らの研究成果を世に発信するため、年1回程度の学会発表を推奨しています。研究テーマの設定は、指導教員が提示する研究テーマを参考に、個々の学生さんの興味範囲・方向性を取り入れつつ最大限希望に添う形で行います。基本的に、研究成果は国際論文(英語)という形で世に広く発表することを目指していきます。プロの研究者を志望する方にお勧めです。
もちろん、指導教員による個別指導を随時行います。指導教員の持つ知識や経験をどんどん活用してください。