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研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。学生のHASANさんの論文が、Altmetricによるスコアで上位5%に入る最も議論された論文の1つとして認定

学生のHASAN, Md. Mahmudulさん(博士後期課程3年、物質化学領域、長尾研究室)による、John Wiley & Sons社刊行のChemistrySelect誌に掲載された論文 "Christmas-Tree-Shaped Palladium Nanostructures Decorated on Glassy Carbon Electrode for Ascorbic Acid Oxidation in Alkaline Condition" が、Altmetricによるスコアで上位5%に入る最も議論された論文の1つとして雑誌編集部から認定されました。
■認定年月日
令和3年7月13日
■論文タイトル
Christmas‐Tree‐Shaped Palladium Nanostructures Decorated on Glassy Carbon Electrode for Ascorbic Acid Oxidation in Alkaline Condition
■研究者、著者
Md. Mahmudul Hasan, Yuki Nagao
■対象となった研究の内容
Christmas-tree-shaped Pd nanostructures were synthesized using a simple one-step electrodeposition method with no additives on a glassy carbon electrode (GCE) surface. Growth of the hierarchical nanostructures was optimized through the applied potential, deposition time, and precursor concentration. Comprehensive characterization techniques such as scanning electron microscopy (SEM), energy-dispersive X-ray spectroscopy (EDX), X-ray photoelectron spectroscopy (XPS), X-ray powder diffraction (XRD), and cyclic voltammetry (CV) were used to characterize structural features of the Christmas-tree-shaped Pd nanostructures. Our Christmas-tree-shaped Pd nanostructures showed excellent catalytic activity for ascorbic acid (AA) electro-oxidation in the alkaline condition. The modified electrode exhibited current density of 4.5 mA cm-2: much higher than that of unmodified GCE (0.6 mA cm-2). This simple electrodeposition technique with well-defined hierarchical Pd nanostructures is expected to offer new perspectives using Pd-based nanostructured surfaces in different research areas.
■認定にあたって一言
We are pleased to receive the award for one of the most-discussed articles in "ChemistrySelect". First and foremost, I want to thank Associate Professor Yuki Nagao for his valuable comments, guidelines, and advice. I am also grateful for the support of Nagao LAB members. Our study will hopefully aid in the development of hierarchical metal catalysts for electrocatalysis and energy conversion applications.


令和3年8月20日
出典:JAIST 受賞https://txj.mg-nb.com/whatsnew/award/2021/08/20-1.html応用物理学領域の麻生助教が中部電気利用基礎研究振興財団の研究助成に採択
応用物理学領域の麻生 浩平助教が公益財団法人 中部電気利用基礎研究振興財団の研究助成に採択されました。
中部電気利用基礎研究振興財団は電気の利用及びこれに関連する基礎的な技術に関する試験研究等に対する助成を行うことにより、電気の効果的な利用の拡大を図り、我が国経済の健全な発展と国民生活の向上に寄与することを目的としています。
■採択期間
令和3年4月1日~令和5年3月31日
■研究課題
リチウムイオン電池の充放電にともなうイオン伝導過程の電子顕微鏡解析
■研究概要
リチウムイオン電池は、充放電に伴って電池内部でリチウムイオンが移動していきます。しかし、物質中でイオンがどのように移動していくのかは未だによく分かっていません。そこで本研究では、ナノメートル程度の空間スケール、かつ従来よりも短い時間スケールでリチウムイオンのダイナミクスを可視化することを目指します。開発した手法を用いて、リチウムイオンの移動の仕方と、原子の並びの乱れといった結晶状態との関係解明に挑戦します。リチウムイオン電池にはどのような結晶状態が適しているのか、これまでにない実験的な知見を与えられると期待しています。
■採択にあたって一言
中部電気利用基礎研究振興財団および選考委員の皆様に心から感謝いたします。本研究を進めるにあたり数々のご協力を頂きました研究室の方々、ナノマテリアルテクノロジーセンターの皆様、および共同研究者の皆様方に感謝申し上げます。
令和3年3月26日
出典:JAIST お知らせ https://txj.mg-nb.com/whatsnew/info/2021/03/26-1.htmlリチウムイオン2次電池の長期的耐久性の課題解決に資する超高耐久性バインダーを開発

リチウムイオン2次電池の長期的耐久性の課題解決に資する
超高耐久性バインダーを開発
ポイント
- リチウムイオン2次電池の長期的耐久性の課題の解決に資する超高耐久性負極バインダーの開発に成功した。
- 1700回の充放電サイクルを経ても95%の容量維持率を示した。
- 本バインダー材料を用いた系ではPVDF系で顕著であった電解液の電気分解が抑制された。
- 充放電サイクル後に、本バインダー材料を用いた電池系ではPVDF系と比較して大幅に低い(45%減少)内部抵抗が観測された。
- 各種電気化学測定により、負極内部のリチウムイオンの拡散性に優れていることが分かった。本バインダー系ではイオンの拡散係数がPVDF系を15%上回った。
- ヤング率、引張強度のいずれにおいても本バインダーはPVDFと比較して大幅に優れた力学的強靭さを示した。
- 電極―電解質界面抵抗を低減できる高耐久性バインダーとして、リチウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用が期待される。
北陸先端科学技術大学院大学 (JAIST) (学長・寺野稔、石川県能美市)の先端科学技術研究科 物質化学領域の松見 紀佳教授、環境・エネルギー領域の金子 達雄教授、バダム ラージャシェーカル講師、アグマン グプタ博士後期課程学生、アニルッダ ナグ元博士研究員は、リチウムイオン2次電池*1の耐久性を大幅に向上させる負極バインダー材料(図1)の開発に成功した。 リチウムイオン2次電池は、一般ユーザーが広く認識しているように充放電能力が経年劣化することが知られている。この問題は、EV用途を始めとする高付加価値製品においては更に深刻な課題となる。リチウムイオン2次電池の劣化要因は極めて多岐にわたるが、様々な電極内における副反応によるバインダーを含む電極複合材料の変性、電極/集電体の接着力の劣化が主要因の一つと考えられている。 本バインダー材料は、アセナフテキノンと1,4-フェニレンジアミンとを酸触媒の存在下で重縮合することにより合成した(図2)。 開発したリチウムイオン2次電池用バインダーは、長く検討されてきたポリフッ化ビニリデン(PVDF)と比較すると、LUMO*2,3が低い電子構造的特徴を有し(図3)、その結果として電解液の過剰な分解による厚い被膜形成を効果的に抑制した。 サイクリックボルタンメトリー*4後に見積もられたイオン拡散係数はPVDF系と比較して15%高い値となった。また、リチウム脱挿入ピークの電位差(オーバーポテンシャル)は本バインダー材料系においてPVDF系と比較して100mV減少し、より容易なリチウムイオンの拡散を支持する結果となった。充放電後の電池セルの界面抵抗*5も本バインダーにおいて大幅に低い値を示した(62Ω;PVDF系では110Ω)(図4)。 その結果として本バインダー高分子系では1735回の充放電サイクルを経ても95%の容量維持率を示し、非常に優れた耐久性が明らかとなった(図5)。 長期充放電後の負極のXPS測定より、バインダー材料由来の窒素原子に由来するピークが明瞭に観測されたことから、電極表面に形成されている被膜は極めて薄いことが示唆された。また、バインダー構造の一部が顕著にリチウムドープされていることも明らかとなった。長期充放電後の負極のSEM像では、PVDF系では500サイクル後に大きなクラックの形成と共に集電体から剥離した様子も観測されたが、本バインダー系では1735サイクル後にも僅かなクラックの形成が観測されるにとどまった。 なお、本研究はJST未来社会創造事業の支援を受けて実施された。 |
本成果は「ACS Applied Energy Materials」(米国化学会)オンライン版に2月17日に掲載された。
題目 | Bis-imino-acenaphthenequinone-Paraphenylene-Type Condensation Copolymer Binder for Ultralong Cyclable Lithium-ion Rechargeable Batteries |
著者 | Agman Gupta, Rajashekar Badam, Aniruddha Nag, Tatsuo Kaneko and Noriyoshi Matsumi |
DOI | 10.1021/acsaem.0c02742 |
【今後の展開】
セル構成や充放電条件を最適化し、最も優れた特性を有する蓄電デバイスの創出に結びつける。
更に異なる材料組成から成る高容量負極材料への適用を進めつつある。
電極―電解質界面抵抗を大幅に低減できる機能性高分子バインダーとして、リチウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用が見込まれる。
【用語解説】
*1 リチウムイオン2次電池:
電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う2次電池。従来型のニッケル水素型2次電池と比較して高電圧、高密度であり、各種ポータブルデバイスや環境対応自動車に適用されている。
*2 LUMO:
電子が占有していない分子軌道の中でエネルギー準位が最も低い軌道を最低空軌道(LUMO; Lowest Unoccupied Molecular Orbital)と呼ぶ。
*3 HOMO:
電子が占有している分子軌道の中でエネルギー準位が最も高い軌道を最高被占軌道(HOMO; Highest Occupied Molecular Orbital)と呼ぶ。
*4 サイクリックボルタンメトリー(サイクリックボルタモグラム):
電極電位を直線的に掃引し、系内における酸化・還元による応答電流を測定する手法である。電気化学分野における汎用的な測定手法である。また、測定により得られるプロファイルをサイクリックボルタモグラムと呼ぶ。
*5 電極―電解質界面抵抗:
エネルギーデバイスにおいては一般的に個々の電極の特性や個々の電解質の特性に加えて電極―電解質界面の電荷移動抵抗がデバイスのパフォーマンスにとって重要である。交流インピーダンス測定を行うことによって個々の材料自身の特性、電極―電解質界面の特性等を分離した成分としてそれぞれ観測し、解析することが可能である。
令和3年3月1日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2021/03/01-1.htmlシリコン負極表面を高度に安定化するポリ(ボロシロキサン)型人工SEIの開発に成功

シリコン負極表面を高度に安定化する
ポリ(ボロシロキサン)型人工SEIの開発に成功
ポイント
- リチウムイオン2次電池のシリコン負極表面の劣化を抑制する人工SEIの開発に成功した。
- 350回の充放電サイクル時点で、ポリ(ボロシロキサン)をコーティングしたシリコン負極型セルは、PVDFコーティング系と比較して約2倍の放電容量を示した。
- 本人工SEIの好ましい特性の一つは自己修復能にあることがSEM測定から明らかになった。
- 充放電サイクル後に、本人工SEIを用いた電池系ではPVDF系と比較して大幅に低い内部抵抗が観測された。
- LiNMCを正極としたフルセルにおいても、ポリ(ボロシロキサン)コーティング系電池セルはPVDF系と比較して大幅に優れた性能を発現した。
- 低いLUMOによりポリ(ボロシロキサン)のコーティング層は初期サイクルで一部還元され、同時にリチウムイオンを含有した好ましいSEIを形成する。
- ヘキサンなどの低極性溶媒にも可溶であり、多様な系におけるコンポジット化、成膜に対応性を有している。
北陸先端科学技術大学院大学 (JAIST) (学長・寺野稔、石川県能美市)の先端科学技術研究科 物質化学領域の松見 紀佳教授、博士後期課程学生(当時)のサイゴウラン パトナイク、テジキラン ピンディジャヤクマールらは、リチウムイオン2次電池*1 におけるシリコン負極の耐久性を大幅に向上させる人工SEI材料の開発に成功した(図1)。 リチウムイオン2次電池負極としては多年にわたりグラファイトなどが主要な材料として採用されてきたが、次世代用負極として理論容量が極めて高いシリコンの活用が活発に研究されている。しかし、一般的な問題点としては、充放電に伴うシリコンの大幅な体積膨張・収縮によりシリコン粒子や表面被膜の破壊が起こり、さらに新たなシリコン表面から電解液の分解が起き、厚みを有する被膜が形成して電池の内部抵抗を低減させ放電容量の大幅な低下につながっていた。本研究では、自己修復型高分子ポリ(ボロシロキサン)をコーティングすることにより、シリコン表面が大幅に安定化することを見出した。 コーティングを行っていないシリコン負極、PVDFコーティングしたシリコン負極、ポリ(ボロシロキサン)コーティングしたシリコン負極をそれぞれ用いたコインセルのサイクリックボルタンメトリー測定*2 を比較すると、ポリ(ボロシロキサン)コーティングを行った系においてリチウム脱挿入ピークの可逆性が大幅に改善された。これは、ポリ(ボロシロキサン)の低いLUMOレベル*3 により初期の電気化学サイクルにおいてコーティング膜が一部還元されることにより、リチウムイオンを含有した好ましいSEIを形成した結果と考えられる。ポリ(ボロシロキサン)コーティングを行ったシリコン表面に傷をつけた後、45℃におけるモルフォロジーの経過をSEM観察したところ、30分以内に傷が修復される様子が確認された(図2)。 このようなポリ(ボロシロキサン)の自己修復能力の結果、アノード型ハーフセルの充放電試験においてポリ(ボロシロキサン)コーティング系はPVDFコーティング系と比較して350サイクル時点で約2倍程度の放電容量を示した(図3)。また、充放電サイクル後のインピーダンス測定より、好ましい界面挙動*4 によるポリ(ボロシロキサン)コーティング系の内部抵抗の低下が示された。 また、LiNMCを正極としたフルセルについても検討したところ、ポリ(ボロシロキサン)コーティング系はPVDFコーティング系と比較して大幅に優れた性能を示した。例えば、30サイクル終了時点でのポリ(ボロシロキサン)コーティング系の放電容量はPVDFコーティング系の約3倍に達した。 本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業の支援を受けて行われた。 |
本成果は、「ACS Applied Energy Materials」(米国化学会)オンライン版に1月19日に掲載された。
題目 | Defined Poly(borosiloxane) as an Artificial Solid Electrolyte Interphase Layer for Thin-Film Silicon Anodes |
著者 | Sai Gourang Patnaik, Tejkiran Pindi Jayakumar, Noriyoshi Matsumi |
DOI | 10.1021/acsaem.0c02749 |
【今後の展開】
自己修復能以外の他のメカニズムによりシリコンを安定化する他系との組み合わせにより相乗効果が大いに期待される。
更なる改良に向けた分子レベルでの構造改変により高性能化を図る。
電極―電解質界面抵抗を大幅に低減できる各種電極用高分子コーティング剤として、リチウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用が見込まれる。
【用語解説】
*1 リチウムイオン2次電池:
電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う2次電池。従来型のニッケル水素型2次電池と比較して高電圧、高密度であり、各種ポータブルデバイスや環境対応自動車に適用されている。
*2 サイクリックボルタンメトリー(サイクリックボルタモグラム):
電極電位を直線的に掃引し、系内における酸化・還元による応答電流を測定する手法である。電気化学分野における汎用的な測定手法である。また、測定により得られるプロファイルをサイクリックボルタモグラムと呼ぶ。
*3 LUMO:
電子が占有していない分子軌道の中でエネルギー準位が最も低い軌道を最低空軌道(LUMO; Lowest Unoccupied Molecular Orbital)と呼ぶ。
*4 電極―電解質界面抵抗:
エネルギーデバイスにおいては一般的に個々の電極の特性や個々の電解質の特性に加えて電極―電解質界面の電荷移動抵抗がデバイスのパフォーマンスにとって重要である。交流インピーダンス測定を行うことによって個々の材料自身の特性、電極―電解質界面の特性等を分離した成分としてそれぞれ観測し、解析することが可能である。
令和3年1月26日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2021/01/26-1.html多糖膜が超らせん構造によって湿度変化に瞬間応答 -ナノスケールから再組織化-

多糖膜が超らせん構造によって湿度変化に瞬間応答
-ナノスケールから再組織化-
PRポイント
- ナノメートルスケールから階層的に再組織化されたマイクロファイバー
- 湿度変化に瞬間応答して曲がる天然高分子のフィルム
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)の先端科学技術研究科、環境・エネルギー領域の、博士後期課程大学院生ブッドプッド クリサラ、桶葭 興資准教授、岡島麻衣子研究員、金子 達雄教授らは、シアノバクテリア由来の多糖サクランを用いて、水中で自ら形成するマイクロファイバーが乾燥時に2次元蛇行構造、3次元らせん構造など高秩序化することを見出した。さらにこの構造を利用して、水蒸気をミリ秒レベルで瞬間感知して屈曲運動を示すフィルムの作製に成功した。天然由来の代表物質でもある多糖をナノメートルスケールから再組織化材料としたこととしても意義深い。光合成産物の多糖を先端材料化する試みは、持続可能な社会の構築に重要である。
多糖は分子認識や水分保持など、乾燥環境下で重要な役割を果たす。しかし、天然から抽出された多糖が潜在的に持つ自己組織化を活用することはこれまで困難であった。特に、セルロースナノファイバーなど分子構造を制御した透明素材などはできても、外界変化への応答材料には利用されてこなかった。一方で、我々の研究グループはこれまでに、シアノバクテリア由来の多糖サクランに関する研究を進め、超高分子量の物性やレアメタル回収能など様々な特性を持つ多糖であることを明らかにしてきた。本研究では、1)分子・ナノメートルスケールからマイクロファイバー形成の階層化、2)界面移動による秩序立った変形、3)その多糖膜の水蒸気駆動の運動について報告した。 ![]() 用いた多糖サクランのユニークな特徴として、直径約1 µm、長さ 800 µm以上と他には類を見ない大きなマイクロファイバーを水中で自己集合的に形成する。今回、これが乾燥界面の移動によって蛇行構造やらせん構造に変形することを解明した。乾燥した多糖フィルムの内部では、このねじれた構造がバネ様運動を引き起こす。このメカニズムを利用して、水滴が接近した際、瞬時に屈曲する運動素子の開発に成功した(図)。 本成果は、科学雑誌「Small」誌に6/9(米国時間)オンライン版で公開された。なお、本研究は文部科学省科研費はじめ、旭硝子財団、積水化学工業、澁谷工業の支援のもと行われた。 |
<背景と経緯>
天然高分子など生体組織が水と共生して高効率なエネルギー変換を達成している事実に鑑みれば、持続可能な社会への移行に向けて学ぶべき構造と機能である。例えば、ソフトでウエットな高分子ハイドロゲルは人工軟骨や細胞足場など医用材料をはじめ、生体機能の超越が有望視されている。同時に、刺激応答性高分子を用いたケモメカニカルゲルや湿度応答する合成高分子フィルムなど、しなやかに運動するアクチュエータの研究も注目されてきた。これに対し、天然物質の多糖を再組織化させて先端材料とする研究は発展途上にある。
我々はこれまでに、シアノバクテリア由来の多糖サクランに関する研究を進め、超高分子量、レアメタル回収能など様々な特性を持つ天然高分子であることを明らかにしてきた。さらに直近の研究では、サクラン繊維が水中から乾燥される際に、空気と水の界面にならび一軸配向膜を形成することも見出している。
<今回の成果>
1.多糖サクランのマイクロファイバーの微細構造(図1)
用いた多糖サクランは、直径約1 µm、長さ 800 µm以上と他には類を見ない大きなマイクロファイバーを水中で自己集合的に形成する。このマイクロファイバーを電子顕微鏡で観察すると、直径約50 nmのナノファイバーが束となり、ねじれた構造をとっていることが分かった。これは、人工的に形を作ったわけではなく、多糖が潜在的に持つ自己集合によるものである。他の多糖やDNAやタンパク質の自己集合体と比較しても、驚異的に大きなサイズである。
2.乾燥界面の移動によってファイバーがしなやかに蛇行・らせんを描いて変形(図2)
今回、これが乾燥界面の移動によって蛇行構造やらせん構造に変形することを解明した。界面移動がゆっくりの場合、マイクロファイバーが一軸配向構造、もしくは蛇行構造を形成する。一方、界面移動が早い場合、3次元的な超らせん構造を形成する。1本のマイクロファイバーが蛇行構造をとった後に超らせん構造をとることから、界面がマイクロファイバーの変形に強く寄与していると考えられる。
3.多糖膜の水滴接近に伴う瞬間応答(図3)
乾燥した多糖膜の内部では、このねじれた構造がバネ様運動を引き起こす。このメカニズムを利用して、水滴が接近した際、瞬時に屈曲する運動素子の開発に成功した。時空間解析から、水滴が接近/離隔した際、曲った状態とフラットな状態を可逆的にミリ秒レベルで屈曲運動を示すことが分かる。このような瞬間応答は、湿度変化を膜中のねじれた構造が瞬時に水和/脱水和を大きな変化に増幅したためと考えられる。
<今後の展開>
天然多糖を再組織化することで、水蒸気駆動型の運動素子をはじめ、光、熱など外界からのエネルギーを変換するマテリアルの構築が期待される。多糖ファイバーに機能性分子を導入しておくことで、湿度だけでなく、光や温度の外部環境変化に応答するソフトアクチュエーターである。本研究の成果は、天然由来の代表物質でもある多糖をナノメートルスケールから再組織化材料としたこととしても意義深い。光合成産物の多糖を先端材料化する試みは、持続可能な社会に非常に重要である。
![]() マイクロファイバーはナノファイバーが束になってねじれた状態。 |
A![]() |
B![]() |
C ![]() A. 蛇行構造をとったマイクロファイバー。B. 界面移動による高次構造化。C. 1本のマイクロファイバーが蛇行構造やらせん構造をとった様子の顕微鏡画像。 |
A ![]() |
B ![]() |
図3. 多糖膜の水滴接近に伴う瞬間応答 A. 多糖フィルムに水滴を接近させた際に示す屈曲運動と時空間解析。水滴が接近した際、ミリ秒レベルで屈曲運動を示す。 B. 屈曲変形の概念図。乾燥した多糖フィルムの内部にあるファイバーのねじれた構造がバネ様運動を引き起こし、高速な屈曲変形を示す。 |
【用語説明】(Wikipedia より)
※1自己組織化:
物質や個体が、系全体を俯瞰する能力を持たないのにも関わらず、個々の自律的な振る舞いの結果として、秩序を持つ大きな構造を作り出す現象のことである。自発的秩序形成とも言う。
※2シアノバクテリア:
ラン藻細菌のこと。光合成によって酸素と多糖を生み出す。
※3多糖:
グリコシド結合によって単糖分子が多数重合した物質の総称である。デンプンなどのように構成単位となる単糖とは異なる性質を示すようになる。広義としては、単糖に対し、複数個(2分子以上)の単糖が結合した糖も含むこともある。
※4サクラン:
硫酸化多糖の一つで、シアノバクテリア日本固有種のスイゼンジノリ (学名:Aphanothece sacrum) から抽出され、重量平均分子量は2.0 x 107g/mol とみつもられている。
※5界面:
ある均一な液体や固体の相が他の均一な相と接している境界のことである。
【論文情報】
掲載誌 | Small (WILEY) |
Vapor-sensitive materials from polysaccharide fibers with self-assembling twisted microstructures | |
著者 | Kulisara Budpud, Kosuke Okeyoshi, Maiko K. Okajima, Tatsuo Kaneko DOI: 10.1002/smll.202001993 |
掲載日 | 2020年6月9日(米国時間)にオンライン掲載 |
令和2年6月11日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2020/06/11-1.html学生の米澤さんの論文がWiley社刊行Surface and Interface Analysis誌でTOP DOWNLOADED PAPER(2018-2019)の1つに選出

学生の米澤 隆宏さん(2020年3月博士後期課程修了、応用物理学領域、高村研究室)による、国際学術誌Surface and Interface Analysisに掲載された論文 "Atomistic study of GaSe/Ge(111) interface formed through van der Waals epitaxy" が、2018年1月~2019年12月の間に同誌に掲載された論文の中で、オンライン掲載後12ヶ月のダウンロード数において上位10%を記録したため、掲載直後に最も多く読まれた、immediate impactのある論文の1つとして認められました。
■選出された論文のタイトル
Atomistic study of GaSe/Ge(111) interface formed through van der Waals epitaxy
■著者
Takahiro Yonezawa, Tatsuya Murakami, Koichi Higashimine, Antoine Fleurence, Yoshifumi Oshima, and Yukiko Yamada-Takamura
■対象となった研究の内容
光デバイスや電子デバイス、スピントロニクスデバイス等への応用が期待される半導体層状物質のGaSeは従来、Se原子が三角柱型に配置された単位層構造のみを有すると考えられてきました。それに対して本研究では、分子線エピタキシー法によるGe基板上へのGaSe薄膜成長時に、従来報告例のない反三角柱型のSe原子配置をもつ単位層が基板との界面に局所形成されることを断面走査透過電子顕微鏡観察により明らかにしました。
■選出にあたっての一言
本研究の遂行にあたり熱心にご指導くださった応用物理学領域の高村由起子先生、大島義文先生、アントワーヌ・フロランス先生に心より感謝いたします。また、多くの技術的なご指導をしてくださったナノマテリアルテクノロジーセンターの村上達也様、東嶺孝一様にも深く感謝いたします。今後、この新たなGaSe相の生成機構や通常のGaSe相との構造の違いに起因した特異物性が解明されることにより、本成果がGaSe薄膜の、ひいては層状物質薄膜全体の成長技術の進展と応用可能性の拡大につながることを期待します。
令和2年5月25日
出典:JAIST 受賞https://txj.mg-nb.com/whatsnew/award/2020/05/25-1.htmlリチウムイオン2次電池の長期的安定作動を指向した高耐久性負極バインダーの開発に成功

リチウムイオン2次電池の長期的安定作動を指向した
高耐久性負極バインダーの開発に成功
ポイント
- リチウムイオン2次電池の長期的安定作動を可能にする高耐久性負極バインダーの開発に成功した。
- 500回の充放電サイクルを経ても95%の容量維持率を示した。
- 本バインダー材料を用いた系ではPVDF系で顕著であった電解液の電気分解が抑制された。
- 充放電サイクル後に、本バインダー材料を用いた電池系ではPVDF系と比較して大幅に低い内部抵抗が観測された。
- 各種電気化学測定により、負極内部のリチウムイオンの拡散性に優れていることが分かった。
- SEI被膜が薄く界面抵抗が低いことが示唆され、充放電後に生成するLiFの量がPVDF系の5分の1に減少したことがイオンの拡散性とSEIの力学特性の両面に寄与したと考えられる。
- 電極―電解質界面抵抗*1を低減できる高性能バインダーとして、リチウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用が期待される。
北陸先端科学技術大学院大学 (JAIST) (学長・浅野哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科物質化学領域の松見紀佳教授、ラージャシェーカル バダム助教、テジキラン ピンディジャヤクマール(博士後期課程学生)はリチウムイオン2次電池*2の耐久性を大幅に向上させる負極バインダー材料(図1、図2)の開発に成功した。
リチウムイオン2次電池は一般に長期的な使用に伴い充放電能力が経時的に劣化することは、広く知られており、ユーザーレベルでも広範に問題が認識されている。その原因は極めて多様であるが、様々な電極内における副反応によるバインダーを含む電極複合材料の変性、電極/集電体の接着力の劣化が主要因の一つと考えられる。 本負極バインダーは、市販のポリ(ビニルベンジルクロリド)を1-アリルイミダゾールとジメチルホルムアミド中80oCで48時間反応させてイオン液体構造を形成させた後に、水溶液中でLiTFSIとのイオン交換を行うことにより合成した(図2)。 開発した高分子化イオン液体型のリチウムイオン2次電池用バインダーは、長く検討されてきたポリフッ化ビニリデン(PVDF)と比較すると、 LUMO*3が低い電子構造的特徴を有する(表1)。バインダー材料が有するアリルイミダゾリウム構造は、PVDFやエチレンカーボネート(EC)が負極側で還元分解する前にイミダゾリウム環C2位が還元を受けカルベンを形成する。その結果ECの過剰な分解による厚いSEI被膜の形成は抑制される。また、アリルイミダゾリウム基の存在により、サイクリックボルタンメトリー*4後に見積もられたリチウムイオンの拡散係数はPVDF系と比較して41%高い値となり、結果として充放電レート特性も改善された。また、リチウム脱挿入ピークの電位差(オーバーポテンシャル)は高分子化イオン液体系において200.3 mVとPVDF系と比較して89.6 mV減少し、より容易なリチウムイオンの拡散を支持する結果となった(図3)。充放電後の電池セルの界面抵抗も高分子化イオン液体系において大幅に低い値を示した(36.39Ω;PVDF系では94.89Ω)(図4)。 その結果としてイオン液体系では500回の充放電サイクルを経ても95%の容量維持率を示し、非常に優れた耐久性が明らかとなった(図5)。 原因を解明するため、500回の充放電サイクル後に負極のXPS測定を行ったところ、高分子化イオン液体系では1.5倍のグラファイティックカーボンのピークが観測された。また、充放電後も負極内部のバインダー由来のN1sピークを観測可能であり、これらの結果はいずれも薄いSEI被膜の形成を示唆した。さらに興味深い観測としては、高分子化イオン液体系ではLi2CO3とLiPF6との反応の結果生成するLiFの量がPVDF系と比較して5分の1程度であった。LiF生成の抑制は、負極内のリチウムイオンの拡散性やSEIの力学的安定性の改善において、重要な結果に結び付いたと考えられる。 なお本研究は、文部科学省元素戦略プロジェクト拠点形成型(京都大学) JPMXP0112101003の支援のもと実施された。 |
成果はACS Applied Energy Materials (米国化学会)オンライン版に2月11日に掲載された。
題目: Allylimidazolium-Based Poly(ionic liquid) Anodic Binder for Lithium Ion Batteries with Enhanced Cyclability
著者: Tejkiran Pindi Jayakumar1, Rajashekar Badam1 and Noriyoshi Matsumi1, 2 *
(1: JAIST, 2: 京大触媒・電池元素戦略)
<今後の展開>
セル構成や充放電条件を最適化し、最も優れた特性を有する蓄電デバイスの創出に結びつける。
イオン液体構造の多様性の視点から、構造をさらに検討し最善の特性の発現に向けたチューニングを行う。
電極―電解質界面抵抗を大幅に低減できる機能性高分子バインダーとして、リチウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用が見込まれる。
図1.Liイオン2次電池における負極バインダー
図2. 高分子化イオン液体バインダーの合成法
Chemical Moiety (Octameric units except EC) | ELUMO (eV) | EHOMO (eV) | Bandgap (eV) |
PVBCAImTFSI (PIL) | -11.75 | -16.28 | 4.53 |
PVDF | 0.27 | -8.76 | -9.03 |
EC | 0.63 | -8.23 | -9.03 |
表1.高分子イオン液体(PIL)、PVDF、ECのHOMO*5、LUMOエネルギー準位
図3.BIAN型高分子(左)及びPVDF(右)を用いて構築したハーフセルのサイクリックボルタモグラム*4(第一サイクル)
図4.BIAN型高分子(左)及びPVDF(右)を用いて構築したハーフセルの充放電サイクル後の内部インピーダンススペクトル
図5.(a) 1st、100th、300th、500thサイクルにおける高分子化イオン液体系の充放電曲線、(b) 高分子化イオン液体系及びPVDF系のサイクル特性
<用語解説>
*1 電極―電解質界面抵抗
エネルギーデバイスにおいては一般的に個々の電極の特性や個々の電解質の特性に加えて電極―電解質界面の電荷移動抵抗がデバイスのパフォーマンスにとって重要である。交流インピーダンス測定を行うことによって個々の材料自身の特性、電極―電解質界面の特性等を分離した成分としてそれぞれ観測し、解析することが可能である。
*2 リチウムイオン2次電池
電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う2次電池。従来型のニッケル水素型2次電池と比較して高電圧、高密度であり、各種ポータブルデバイスや環境対応自動車に適用されている。
*3 LUMO
電子が占有していない分子軌道の中でエネルギー準位が最も低い軌道を最低空軌道(LUMO; Lowest Unoccupied Molecular Orbital)と呼ぶ。
*4 サイクリックボルタンメトリー(サイクリックボルタモグラム)
電極電位を直線的に掃引し、系内における酸化・還元による応答電流を測定する手法である。電気化学分野における汎用的な測定手法である。また、測定により得られるプロファイルをサイクリックボルタモグラムと呼ぶ。
*5 HOMO
電子が占有している分子軌道の中でエネルギー準位が最も高い軌道を最高被占軌道(HOMO; Highest Occupied Molecular Orbital)と呼ぶ。
令和2年2月17日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2020/02/17-1.htmlナノテクノロジープラットフォーム公開講座「集束イオンビーム(FIB)技術の基礎と微細加工実習」【定員に達したため、受付を終了いたしました。】

本学ナノマテリアルテクノロジーセンター主催で集束イオンビーム(FIB)の技術の基礎を学び、微細加工実習を行うことのできる公開講座を開催いたします。
ただいま受講者を募集しております。皆様のご参加をお待ちしております。
日 時 | 令和2年2月21日(金)10:00~17:00 |
場 所 | 北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター JAISTイノベーションプラザ |
テーマ | 集束イオンビーム(FIB)技術の基礎と微細加工実習 |
講 師 | 赤堀 誠志:ナノマテリアルテクノロジーセンター 准教授 (応用物理学領域) 東嶺 孝一:ナノマテリアルテクノロジーセンター センター長補佐・技術専門員 宇野 宗則:ナノマテリアルテクノロジーセンター 技術専門職員 伊藤 真弓:産学官連携推進センター 技術支援部門 研究員 |
内 容 | Gaに代表される液体金属イオン源を用いた集束イオンビーム(FIB)技術は,透過型電子顕微鏡用試料の作製や半導体製造用フォトマスクの修正など、様々な微細加工に広く利用されており、近年はさらなる微細化に向けて、電界電離ガスイオン源(GFIS)を用いたFIB技術も進展しています。本講座では、FIB技術の概要を掴めるよう、FIB技術の基礎を解説するとともに、実際にGa-FIB装置やGFIS-FIB装置を操作し、微細加工実習を行います。 |
定 員 | 5名程度(先着順) |
参加対象者 | 企業・他大学・高専等の研究者・技術者 |
受講料 | 6,200 円(税込) |
申込方法 | 受講希望の方は、 ①氏名(ふりがな) ②勤務先等・職名 ③受講の目的 ④本講座に期待すること ⑤書類送付先 ⑥電話番号 ⑦メールアドレス を明記の上、E-mail (宛先 nano-net@jaist.ac.jp)またはFAX(ポスター2ページ目参照)でお申し込みください。 |
申込締切 | |
問合わせ先 ・申込み先 |
北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター事務局 〒923-1292 石川県能美市旭台1-1 TEL:0761-51-1449 FAX:0761-51-1455 E-mail:nano-net@jaist.ac.jp |
高分子の相転移を利用した人工光合成に成功-可視光エネルギーによる高効率な水素生成を達成-

高分子の相転移を利用した人工光合成に成功
-可視光エネルギーによる高効率な水素生成を達成-
ポイント
- 実際の光合成に習った光エネルギー変換システムの構築
- 高分子の可逆的相転移挙動を利用して高効率な水素生成に成功
北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)、先端科学技術研究科環境・エネルギー領域の桶葭興資講師らは東京大学大学院の吉田亮教授と共同で、電子伝達分子を持つ刺激応答性高分子を合成し、高分子の相転移によって電子伝達を加速させる人工光合成システムを構築した。
石油ショック以来、持続可能社会の実現に向けて人工光合成*1が注目を浴び、様々なシステムが考案されてきた。しかし、実際の葉緑体が持つ光合成システムにあるような、水分子との連動的な電子伝達組織の構築が未だ提案されてこなかった。これに対し本研究では、機能分子間の電子伝達に駆動力が生じるよう、高分子の相転移を利用した人工光合成システムを設計した。 まず、刺激応答性高分子*2のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(poly(NIPAAm))*3に電子伝達分子ビオロゲン*4を導入すると、その酸化/還元*5状態によって高分子の相転移*6温度が異なることを見出した。この高分子poly(NIPAAm-co-Viologen) は一定温度下で酸化/還元変化により可逆的なコイル - グロビュール転移*7を伴い、加速的に電子伝達して水素を生成する。光エネルギーが与えられた際、光励起電子をビオロゲン分子が受けると、その周辺の高分子は疎水的となる。これが、界面活性剤で分散された触媒ナノ粒子近傍の疎水的な空間に潜り込み、電子を渡して水素生成する。実際、可視光エネルギーを用いた水素生成は、相転移温度付近で10%を超え、高い量子効率が達成された。 従来の溶液システムによる人工光合成では、液相中で機能性分子や触媒ナノ粒子が乱雑な分散状態のため電子伝達も乱雑となり、反応が進むにつれて分子凝集による機能低下が問題であった。これとは大きく異なり、粒子間に高分子が介在することで粒子凝集を抑制すると同時に、高分子の相転移によって電子伝達の加速が得られた。 高分子相転移現象は、ソフトアクチュエータ*8やドラッグデリバリーシステム*9の開発に広く利用されてきたが、今回の光エネルギー変換への利用は画期的である。本成果により、可視光エネルギーによる人工光合成システム「人工葉緑体」の構築が期待される。 ![]() 本成果は、4月25日付WILEY発行Angewandte Chemie International Edition (オンライン版) に掲載された。なお、本研究は科学研究費補助金などの支援を受けて行われた。 |
<今後の展開>
可視光エネルギーにより水を完全分解 (2H2O + hν → 2H2 + O2) する反応場として、高分子網目中に機能分子を配置した光エネルギー変換システムを構築することが期待される。
<論文情報>
掲載誌 | Angewandte Chemie International Edition (WILEY) |
論文題目 | Polymeric Design for Electron Transfer in Photoinduced Hydrogen Generation through a Coil-Globule Transition |
著者 | Kosuke Okeyoshi, Ryo Yoshida |
掲載日 | 2019年4月25日付、オンライン版 |
DOI | 10.1002/anie.201901666 |
<用語解説>
*1. 人工光合成
光合成を人為的に行う技術のこと。自然界での光合成は、水・二酸化炭素と、太陽光などの光エネルギーから化学エネルギーとして炭水化物などを合成するものであるが、広義の人工光合成には太陽電池を含むことがある。自然界での光合成を完全に模倣することは実現していないが、部分的には技術が確立している。
*2. 刺激応答性高分子
温度やpHなど外部刺激に応答して可逆的に親・疎水性など物理化学的性質を変化させる高分子のこと。
*3. ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)
この高分子水溶液は、32度付近で下限臨界温度型の相転移挙動を示す。最も広く研究されている刺激応答性高分子。
*4. ビオロゲン
4,4'-ビピリジンの窒素原子上をアルキル化したピリジニウム塩のこと。農薬の他、生物学や光触媒反応、エレクトロクロミック材料などの研究で使用されている。
*5. 酸化/還元
酸化還元反応とは化学反応のうち、反応物から生成物が生ずる過程において、原子やイオンあるいは化合物間で電子の授受がある反応のこと。
*6. 相転移
ある系の相が別の相へ変わることを指す。熱力学または統計力学的において、相はある特徴を持った系の安定な状態の集合として定義される。
*7. コイル - グロビュール転移
分子鎖が広がったランダムコイル状態から凝集したグロビュール状態をとること。またその逆の状態変化のこと。今回の場合、高分子がランダムコイル状態で親水的、グロビュール状態で疎水的な性質を持つ。
*8. ソフトアクチュエータ
軽量で柔軟な材料が変形することによりアクチュエータとして機能する材料、素子、デバイスのこと。
*9. ドラッグデリバリーシステム
体内の薬物分布を量的・空間的・時間的に制御し、コントロールする薬物伝達システムのこと。
令和元年5月15日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2019/05/15-1.htmlシリセンと六方晶窒化ホウ素の積層構造を実現 -シリセンの性質に影響しない絶縁性酸化防止膜の実証-

シリセンと六方晶窒化ホウ素の積層構造を実現
-シリセンの性質に影響しない絶縁性酸化防止膜の実証-
ポイント
- シリセンはケイ素版グラフェンと言える原子層物質。このシリセンと絶縁性の原子層物質である六方晶窒化ホウ素の積層構造を二ホウ化物薄膜上で実現。
- 世界で初めて、絶縁性の六方晶窒化ホウ素シートにより、シリセンの構造や電子状態に影響を及ぼすことなく、大気中での酸化防止に成功した。
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・浅野 哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科応用物理学領域のアントワーヌ・フロランス講師、高村 由起子准教授らは、トゥウェンテ大学、ウォロンゴン大学と共同で、シリセンと六方晶窒化ホウ素(hBN)の積層構造を二ホウ化ジルコニウム薄膜上に形成し、シリセンの構造と電子状態を乱さずに、大気中で一時間以上の酸化防止が可能であることを世界で初めて実証しました。 |
<今後の展開>
六方晶窒化ホウ素(hBN)がシリセンの電子的特性に影響せずに良好な界面を形成することが実験的に明らかとなり、加えて、一原子層厚みにも関わらず、短時間とはいえ大気中での酸化防止効果があることが実証されました。今後は、このhBNシート上にさらに厚く保護層を形成することでシリセンを大気中で安定的に取り扱うことが可能になり、従来困難であった大気中での評価や加工、ひいてはデバイス作製へと発展することが期待できます。
<論文>
"Van der Waals integration of silicene and hexagonal boron nitride" (シリセンと六方晶窒化ホウ素のファン・デル・ワールス積層)
DOI: https://iopscience.iop.org/article/10.1088/2053-1583/ab0a29/
F. B. Wiggers, A. Fleurence, K. Aoyagi, T. Yonezawa, Y. Yamada-Takamura, H. Feng, J. Zhuang, Y. Du, A.Y. Kovalgin and M. P. de Jong
2D Materials 6, 035001 (2019).
平成31年4月8日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2019/04/08-1.htmlイムノクロマト診断薬の高感度化、迅速診断化に有効な金属ナノ粒子-ラテックスナノコンポジット微粒子を創製

イムノクロマト診断薬の高感度化、迅速診断化に有効な
金属ナノ粒子-ラテックスナノコンポジット微粒子を創製
ポイント
- 金および白金ナノ粒子をラテックス粒子にそれぞれ約200個、25,000個担持させた金属ナノ粒子-ラテックスナノコンポジット微粒子の合成に成功
- 合成した金属ナノ粒子-ラテックスナノコンポジット微粒子を用いたイムノクロマトは、金コロイドとの比較において最大64倍の感度向上を示した。
- 金属ナノ粒子-ラテックスナノコンポジット微粒子は、ビオチン-アビジン結合を利用することにより、様々な抗体、バイオマーカーを粒子表面にコーティング可能であることを示唆した。
北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)、物質化学領域の前之園 信也 教授らは、新日鉄住金化学株式会社総合研究所(新日鉄住金化学株式会社と新日鉄住金マテリアルズ株式会社は経営統合し、2018年10月1日より日鉄ケミカル&マテリアル株式会社となります)と連携し、医療診断薬(イムノクロマト)の高感度化・迅速診断化に有効な金属ナノ粒子-ラテックスナノコンポジット微粒子を創製しました。 イムノクロマト注)は、特別な設備が不要なハンディータイプのデバイスであり短時間に目視判定ができるため、 その簡便性・迅速性をメリットとして先進国から発展途上国まで世界の様々な医療現場において重要な検査手法として利用されています。しかしながら、イムノクロマトの感度は十分とは言えず、現状では検体中の抗原やバイオマーカーが比較的豊富に存在する検査項目に限定されています。また、検査項目の中には、発症初期の抗原濃度が低い場合、判定が不十分なものもあるため、検出感度の向上は非常に重要な課題となっています。このイムノクロマトの感度向上には、標識粒子の発色性が大きく影響します。すなわち、標識粒子の発色性を強くすることにより、イムノクロマトの感度を向上することが可能となります。 この様な背景の中、我々は従来標識粒子として利用されている金や白金ナノ粒子をラテックス粒子に数百~数万個担持させることにより粒子1個当たりの発色性が極めて強い金属ナノ粒子-ラテックスナノコンポジット微粒子を合成しました。さらに粒子サイズや金属ナノ粒子の担持量を最適化することでイムノクロマトの感度と検出時間を飛躍的に向上することに成功しました。本成果は、アメリカ化学会が発行するACS Applied Materials and Interfaces 誌に2018年9月5日に掲載されました。 本研究の一部は文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(分子・物質合成)の支援により北陸先端科学技術大学院大学で実施されました。 |
<今後の展開>
本研究で合成した金属ナノ粒子-ラテックスナノコンポジット微粒子の実用化を推進していきます。また、磁性粒子の担持など新しい機能化も検討していきます。一方、この粒子は、イムノクロマトでの利用のみに留まらず多種多様な応用の可能性を持っています。今後、様々な分野での適用検討を行うことで、この粒子の新しいアプリケーションの創製に繋がることを期待しています。
図1 金ナノコンポジット微粒子(左)と白金ナノコンポジット微粒子(右)のSEM写真
図2 金ナノコンポジット(Au-P2VP:青)と白金ナノコンポジット(Pt-P2VP:赤)の吸収スペクトル。 比較として、担体であるラテックス(P2VP:灰)および金コロイド(AuNP:緑)の吸収スペクトルもプロット。 挿入した写真は、Au-P2VPおよびPt-P2VPの水分散液。尚、Au-P2VP、Pt-P2VP、P2VP(1×109)は同じ粒子数で測定し、AuNPは100倍の粒子数(1×1011)で測定した。
図3 (A)インフルエンザA型で評価した結果。(上)Au-P2VP、(中)Pt-P2VP、および(下)Pt-P2VPを用いたイムノクロマト(640 HAU/mlの抗原を1.0×102〜1.024×105倍に希釈)。左の列はイムノクロマトのカラー写真を示し、右の列はコントラストを強調した黒と白のネガ画像を示す。 NC、C lineおよびT lineは、それぞれネガティブコントロール、コントロールラインおよびテストラインを示す。(B)抗原希釈倍率と吸収スペクトル強度の相関を示したグラフ。
<論文>
掲 載 誌 | ACS Applied Materials and Interfaces |
論文題目 | Metal (Au, Pt) Nanoparticle-Latex Nanocomposites as Probes for Immunochromatographic Test Strips with Enhanced Sensitivity |
著 者 | Yasufumi Matsumura,† Yasushi Enomoto,† Mari Takahashi,‡ Shinya Maenosono‡ †新日鉄住金化学株式会社 総合研究所 ‡北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス系 物質化学領域 |
DOI | 10.1021/acsami.8b11745 |
掲 載 日 | 2018年9月5日にオンライン掲載(Just Accepted Manuscript) |
<用語説明>
注)イムノクロマト
抗原抗体反応を利用した迅速検査方法。イムノクロマトは目視で結果を判定することができるため、簡便な方法として、主に細菌やウイルスなどの病原体の検出に用いられています。日本国内では、妊娠検査薬やインフルエンザ検査薬として多く利用されています。
平成30年9月21日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2018/09/21-1.html水田教授が文部科学大臣表彰 科学技術賞受賞

本学の先端科学技術研究科の水田 博(みずた ひろし)教授が、平成30年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞することが決定し、文部科学省から10日に発表されました。
文部科学大臣表彰とは、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者について、その功績を讃え贈られるものです。
今回の受賞は、水田教授の下記の業績が評価されたことによります。
なお、表彰式は4月17日(火)12時10分~(予定)に文部科学省 3階 講堂で開催されます。
科学技術賞 研究部門 ■受賞者 先端科学技術研究科 教授 水田 博 ■業績名「ナノメータスケールにおける電子-機械複合機能素子の研究」 |
![]() |
業 績 MOSFETの微細化で集積回路の集積度を上げていくムーアの法則が終焉を迎える中、集積回路にセンサ、アクチュエータなど異種デバイスを融合させて多機能化をはかる取組みが盛んになっている。特にMEMSと集積回路の融合技術は、IoT市場における鍵技術と期待されている。 本研究では、電子デバイス内部にナノ・原子スケールの機械的可動構造を取り込んだ高機能ナノ電子機械システム(NEMS)複合デバイスを創生した。可動構造として極薄シリコン膜、および原子層材料グラフェンを採用し、従来のMEMS技術では不可能であったナノメータ領域へのダウンスケーリングに成功した。 本研究により、スイッチ素子応用では、従来のMEMS技術より1桁以上小さい〜1Vレベルの低電圧・急峻スイッチ動作を達成した。センサ素子応用では、現在の技術では極めて困難であるppbレベル低濃度ガスに対する室温・高速単分子検出と、ゼプトグラム(10-21g)オーダーの室温・高感度質量検出を実現した。 本成果は、集積システムの大幅な消費電力削減と、環境・健康モニタリング技術における検出感度の飛躍的向上、小型化、低コスト化に寄与することが期待される。 主要論文 「Low pull-in voltage graphene electromechanical switch fabricated with a polymer sacrificial spacer」 Applied Physics Letters誌、vol. 105、033103 (4 pages)、2014年7月発表 「Room temperature detection of individual molecular physisorption using suspended bilayer graphene」 Science Advances誌、vol. 2、e1501518 (7 pages)、2016年4月発表 |
平成30年4月11日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2018/04/11-1.html金属を含まない極めて高い電気化学的耐久性を示す有機高分子系酸素還元反応触媒(カソード電極材料)の開発に成功

金属を含まない極めて高い電気化学的耐久性を示す有機高分子系
酸素還元反応触媒(カソード電極材料)の開発に成功
ポイント
- 1000回の電気化学サイクルを経ても高い電気化学的安定性を示す非金属型有機高分子系酸素還元反応触媒(カソード電極材料)の開発に成功した。同様の条件で失活する市販品とは対照的な特性である。
- 得られた材料は明確な構造を有しており、酸素還元反応の機構の解明にも寄与するアプローチである。
- 水溶液系のみならず、非水系(Li塩溶存下)においても優れた酸素還元反応触媒活性を示し、燃料電池のみならず、リチウム―空気電池をはじめとする金属―空気電池への適用にとっても有用と考えられる。
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・浅野哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科物質化学領域の松見 紀佳教授、サイゴウラン パトナイク大学院生、ラーマン ヴェーダラージャン(元JAIST助教、現インド国立燃料電池研究所)らの研究グループはビスアセナフテンキノンジイミン(BIAN)骨格を有する新規π-共役系高分子(BP)(図1)を開発し、金属を含まない本材料が優れた酸素還元反応特性及び高い電気化学的耐久性を示すことを見出した。 今日、酸素還元反応は燃料電池及びリチウム―空気電池*1のデバイス作動における律速段階として知られており、その効率がデバイスの性能を左右することが広く認識されている。 成果は米国化学会のACS Applied Energy Materials オンライン版に3/15に掲載された。 |
<今後の展開>
本研究では、金属を含まない新たなカテゴリーの明確な構造を有する高分子系酸素還元反応触媒を戦略的に創出することに成功した。本アプローチでは今後合成手法のバリエーションによる更なる構造制御や異なる特性を有した活性点の随意なデザインが可能と考えられる。高温でのアニーリング処理が必要な材料と比較して厳しい条件を必要としない利点があり、これまでに報告されている非金属系酸素還元触媒として知られる最善の材料と同等の特性を示していることから、更なる発展が期待できる。
燃料電池及びリチウム―空気電池用カソード電極材料としての展開が期待される。
図1 BIAN構造を有するπ-共役系高分子(BP)の構造
図2 窒素雰囲気下及び酸素雰囲気下におけるGO/BPのサイクリックボルタモグラム
(At 50 mV/sec in 0.1M KOH (RE: Hg/HgO, CE:Pt wire, WE: Catalyst coated GCE)
図3 1000回の電気化学サイクルを経たBIAN系高分子の電気化学的安定性の検討
図4 1000回の電気化学サイクルを経たVulcan-XC(市販品;白金/炭素系触媒)の電気化学的安定性の検討
図5 DFT計算によるBIAN系高分子の最適化構造と電荷分布
<用語解説>
※1)リチウム―空気電池
リチウム―空気電池は金属リチウムを負極活物質、酸素を正極活物質とした充放電可能な電池である。リチウムイオン2次電池と比較すると、理論的に貯蔵可能なエネルギー容量は10倍程度と極めて高い。正極の活物質として空気中の酸素を利用すれば正極は容量を制限しないことから、次世代電池として多大な期待を集めている。
※2)サイクリックボルタンメトリー(サイクリックボルタモグラム)
電極電位を直線的に掃引し、系内における酸化・還元による応答電流を測定する手法である。電気化学分野における汎用的な測定手法である。また、測定により得られるプロファイルをサイクリックボルタモグラムと呼ぶ。
平成30年3月19日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2018/03/19-1.html銅スズ硫化物系ナノ粒子から環境に優しいナノ構造熱電材料を創製

銅スズ硫化物系ナノ粒子から環境に優しいナノ構造熱電材料を創製
ポイント
- 銅スズ硫化物系ナノ粒子を化学合成し、それを焼結することで環境に優しいナノ構造熱電材料の創製に成功
- ナノ粒子の粒成長を抑制しながら焼結することで微細構造と組成を制御し、構造及び組成と物性との関係を解明
- 創製したナノ構造熱電材料は、構造や組成制御がされていない通常の銅スズ硫化物結晶に比べて約10倍の熱電変換性能を示し、サステイナブルな熱電材料の実用化へ向けた大きな一歩
北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)、物質化学領域の前之園 信也教授らは、(株)日本触媒、産業技術総合研究所と共同で、銅スズ硫化物系ナノ粒子を化学合成し、それらをビルディングブロック(構成要素)として環境に優しい銅スズ硫化物系ナノ構造熱電材料を創製しました。このように、化学的アプローチによって熱電材料のナノ構造を精密に制御し、熱伝導率と電気伝導率を独立に調節することで熱電変換効率を向上させる方法は他の熱電材料にも適用できるため、高い熱電変換効率を有したサステイナブルな熱電材料の実現への有効な手段の一つとして期待されます。 実用化された代表的な熱電材料であるテルル化ビスマスをはじめ多くの熱電材料には、テルル、セレン、鉛といった毒性が高いあるいは資源的に希少な元素が用いられています。民生用途は安全性の担保が必須条件であり、毒性の高い材料系を用いた場合には実用化に向けての大きな障害となりかねません。そのような観点から、我々は、サステイナブルな熱電材料として金属硫化物材料に注目してきました。金属硫化物材料は比較的安価で安全、資源的にも豊富です。金属硫化物熱電材料は、これまで知られている熱電材料の主要元素であるテルルやセレンと同じ第16族元素である硫黄を用いており、熱電材料としての潜在性も高いと考えられます。 一方、熱電変換効率を表す指標である無次元性能指数 ZT を向上させる一つの方法論として"ナノ欠陥構造制御"があります。ナノ欠陥構造制御を行うためのアプローチの一つに、化学合成したナノ粒子をビルディングブロックとして用いてマルチスケール欠陥構造を有する熱電材料を創製しようという試みが近年注目を集めています。バルク結晶をボールミリング法等によって粉砕しナノ粉末を得て、それらを焼結することでナノメートルサイズの結晶粒界を有する熱電材料が作製されてはいるものの、このようなトップダウン式の手法では原子・ナノスケールの精密な構造制御は困難でした。一方、不純物元素や格子欠陥が導入された均一かつ単分散なナノ粒子を、形状や粒径を制御しながら精密に化学合成し、それらをパルス通電加圧焼結法などによって焼結することで、マルチスケール欠陥構造を有する熱電材料をボトムアップ式に創製できます。 |
<今後の展開>
本研究は、マルチスケール欠陥構造を有する高性能銅硫化物系熱電材料の創製に向けての大きな第一歩となります。今後はCu2SnS3系だけでなく、テトラヘドライト(Cu12Sb4S13)系など様々な銅硫化物系ナノ粒子を化学合成し、それらナノ粒子を複数種類配合して焼結することで、パワーファクターの向上と格子熱伝導率の低減を同時に達成し、更なるZTの向上を図ります。最終的には、エネルギーハーベスティングに資することができるサステイナブル熱電材料の実用化を目指します。
図1 (a,b) CTS 及び (c-f) ZnドープCTS ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像:(a)閃亜鉛鉱型CTSナノ粒子、(b) ウルツ鉱型CTSナノ粒子、(c) Cu2Sn0.95Zn0.05S3ナノ粒子、(d) Cu2Sn0.9Zn0.1S3ナノ粒子、(e) Cu2Sn0.85Zn0.15S3ナノ粒子、(f) Cu2Sn0.8Zn0.2S3ナノ粒子。
図2 (a) 電気伝導率、(b) ゼーベック係数、(c) 熱伝導率、(d) 格子熱伝導率、(e) パワーファクター、(f) ZT。 ▲、●、●、●、●及び●は、それぞれ、図1a-fのナノ粒子をパルス通電加圧焼結することによって作製したペレットのデータを表す。○はナノ構造を持たないCTSバルク結晶の値である(Y. Shen et al., Sci. Rep. 2016, 6, 32501)。(b)の挿入図は、●と○の格子熱伝導率データを温度の逆数(T -1)に対してプロットした図である。ナノ構造制御されたCTSでは格子熱伝導率がT -1に依存していないことから、フォノンが効率的に散乱されていることを示している。
<論文>
掲 載 誌 | Applied Physics Letters |
論文題目 | "Sustainable thermoelectric materials fabricated by using Cu2Sn1-xZnxS3 nanoparticles as building blocks" |
著 者 | Wei Zhou,1 Chiko Shijimaya,1 Mari Takahashi,1 Masanobu Miyata,1 Derrick Mott,1 Mikio Koyano,1 Michihiro Ohta,2 Takeo Akatsuka,3 Hironobu Ono3 and Shinya Maenosono1* 1 北陸先端科学技術大学院大学 2 産業技術総合研究所 3 株式会社日本触媒 |
DOI | 10.1063/1.5009594 |
掲 載 日 | 2017年12月29日にオンライン掲載 |
平成30年1月4日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2018/01/04-1.html物質化学領域の松村准教授らの研究成果がWiley社発刊の国際学術誌 Macromolecular Rapid Communications(IF:4.265)のfront coverに採択
物質化学領域の松村和明准教授らの研究成果がWiley社発刊の国際学術誌 Macromolecular Rapid Communications (IF:4.265)のfront coverに採択されました。
■掲載誌
Macromolecular Rapid Communications (Wiley-VCH) 2017. 38, 1700478
■著者
Robin Rajan (博士研究員), Kazuaki Matsumura*
■論文タイトル
Tunable Dual-Thermoresponsive Core-Shell Nanogels Exhibiting UCST and LCST Behavior
■論文概要
コアがPolyN-isopropylacrylamide、シェルがPolysulfobetaineで構成されたコアシェル型ナノゲルを創出し、低温と高温で相転移を起こす二段階温度応答性を示すことを示しました。本学のSTEM-EDXを用いることでコアシェル型の構造が明らかとなり、その構造を変化させることにより温度応答性を制御することにも成功しました。
このような材料は、温度を変化させることで多段階の薬物放出を制御出来る材料として期待でき、高分子化学およびバイオマテリアルの分野で注目されています。
詳細:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/marc.201700478/full
平成29年11月22日
出典:JAIST お知らせ https://txj.mg-nb.com/whatsnew/info/2017/11/22-1.htmlシリセン上へ分子を線状に集積 -分子の性質を損なわずに固定することに成功-

シリセン上へ分子を線状に集積
-分子の性質を損なわずに固定することに成功-
ポイント
- シリセンへ有機分子を蒸着した結果、分子の性質が保たれたまま、シリセン上の特定の活性な場所に固定されることが分かった。
- 有機分子とシリセンのつくる界面を実験と理論計算の両面から詳細に調べた例はなく、世界で初めての成果。
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・浅野 哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科応用物理学領域の高村 由起子准教授、アントワーヌ・フロランス助教らは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、ユーリッヒ総合研究機構、東京大学物性研究所と共同でシリセン上にヘモグロビン様の有機分子がその性質を保持した状態で固定されることを発見しました。 |
Image courtesy of Tobias G. Gill, Vasile Caciuc, Nicolae Atodiresei, Ben Warner, and Cyrus Hirjibehedin.
<今後の展開>
シリセン上に磁性を持つ分子を固定できると、シリセンの分子スピントロ二クス分野への応用が期待されます。また、今後は、分子を蒸着したシリセンの電子状態の測定などを通して、シリセンの性質が分子吸着によりどう制御できるのかを調べていきたいと考えています。
<論文>
"Guided molecular assembly on a locally reactive two-dimensional material"(局所的に活性な二次元材料上への誘導分子集積)
DOI: 10.1002/adma.201703929
Ben Warner, Tobias G. Gill, Vasile Caciuc, Nicolae Atodiresei, Antoine Fleurence, Yasuo Yoshida, Yukio Hasegawa, Stefan Blügel, Yukiko Yamada-Takamura, and Cyrus F. Hirjibehedin
Advanced Materials 2017, 1703929.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.201703929/abstract
(オープンアクセス論文なので、どなたでもダウンロードできます。)
<共同研究先へのリンク>
Hirjibehedin Research Group, London Centre for Nanotechnology, University College London
https://www.ucl.ac.uk/hirjibehedin
Peter Grünberg Institut and Institute for Advanced Simulation, Forschungszentrum Jülich and JARA
http://www.fz-juelich.de/pgi/pgi-1/EN/Home/home_node.html
長谷川幸雄研究室、東京大学物性研究所
http://hasegawa.issp.u-tokyo.ac.jp/hasegawa/Welcome/Welcome.html
平成29年10月12日
出典:JAIST プレスリリース https://txj.mg-nb.com/whatsnew/press/2017/10/12-1.html